その名も「北米のアマゾン」、フロリダの秘境を訪ねる

「北米のアマゾン」の異名をとるフロリダ州南部の公園は、大自然の魅力であふれている/Alex Holder/Alamy

2021.09.04 Sat posted at 17:55 JST

(CNN) 南フロリダを冒険するなら一度は野生のピューマ亜種を見てみたいものだが、遭遇するのは至難の業だ。

フロリダパンサーと呼ばれるこのピューマ亜種は、推定個体数が130頭未満という米国で最も絶滅が危惧されている動物の1種で、現在は南フロリダでしか見られない。そしてこのパンサーは、主に沼地、湿地帯、ジャングルの密林に生息するため、追跡が非常に難しい。

そのため、今年1月にフロリダ在住のエズラ・バン氏が1日に5頭のパンサーと遭遇し、4頭のパンサーの家族のビデオ撮影に成功すると、そのうわさはマイアミで一気に広まった。


フロリダ在住のエズラ・バン氏が、希少なフロリダパンサーのビデオ撮影に成功/Ezra Van

元捜索救助隊員のバン氏は5年もの間、パンサーと遭遇した事実を明らかにするとともに、その足跡や最近殺された証拠、現地での移動パターンなどの調査結果を詳細に記録した。

その結果、今年の1月13日に、フロリダのファカハッチー・ストランド保護区州立公園内の適切な場所、適切な時間にパンサーを待ち伏せすることができた。

本や映画の題材に

ファカハッチー・ストランド保護区州立公園は1974年に創設され、当初はあまり注目されなかったが、94年にこの公園から最も貴重な種類のランを大量に持ち出した密採者が捕まり、脚光を浴びた。

このニュースが世間の注目を集め、スーザン・オーリアンのベストセラー本「The Orchid Thief」やニコラス・ケイジ主演の映画「アダプテーション」(2002年)の題材になった。

その後、同公園への訪問者数はわずかに増加したが、その効果は長続きしなかった。ファカハッチーはフロリダ最大の州立公園だが、現在は南フロリダで最も訪問者数の少ない州立公園の1つだ。

「北米のアマゾン」「北米のランの都」として知られるファカハッチーは、複雑な歴史を持ち、多様な外来種が生息し、教育プログラムが充実し、さまざまなハイキングが楽しめ、そしてもちろん、数々の有名な事件が発生した場所でもある。この公園はまさに、南フロリダ最大の「穴場」かもしれない。

フロリダパンサーは絶滅の脅威にさらされている

「北米のアマゾン」の由来

27年間、ファカハッチーで公園専属の生物学者として勤務するマイク・オーウェン氏は、公園内のランや他の熱帯着生植物(他の植物の上に根を張って育つ植物)について幅広い研究を行った後、「北米のアマゾン」というキャッチフレーズを思い付いた。

ファカハッチーに生育する植物の原産地は、アマゾンから中米の熱帯地方、カリブ海地域、そして南フロリダに至る広範囲に分布している。熱帯着生植物が多く生息する最北端の地であることから、オーウェン氏はファカハッチーを「北米のアマゾン」と名付けたという。

またファカハッチーは、47種ものランが生育していることから「北米のランの都」とも呼ばれる。ランの中でも特に有名なのがゴーストオーキッド(幽霊ラン)だ。


ファカハッチーの湿地帯に咲くゴーストオーキッドの花/Rhona Wise/AFP/Getty Images

ランを間近で観賞

小ぶりで「幽霊のように白い」ゴーストオーキッドの花は長さ約7.6センチ、幅約5センチの大きさになるが、花が咲いていない時は緑色の根が木に絡み付いているだけなので、発見が非常に難しい。しかし花が咲くと、その自然な美しさと繊細さに目を奪われる。

1977年に発生した異常な寒気の影響で、南フロリダに生育するゴーストオーキッドの大半が枯れた上に、密採者らによってかなりの数が摘み取られた。

オーウェン氏によると、93年以降、ストランドで約500輪のゴーストオーキッドが発見されているという。1本のランが花を咲かせるまでに最長20年かかることもあり、中には複数の花を咲かせるものもある。科学者たちは現在も、ゴーストオーキッドの完全なライフサイクルの解明に取り組んでいる。

ストランドが提供する湿地散策やトラムツアーに参加すると、さまざまな種類のランを間近で見ることができるが、残念ながらゴーストオーキッドが咲いている場所には連れて行ってもらえない。

ゴーストオーキッドはその商業的価値の高さから現在も密採の懸念があり、ストランドではその生育場所を厳重に保護している。


水に体を浸すアリゲーター/Jeff Greenberg/Universal Images Group Editorial/Getty Images

アリゲーターが担う重要な役割

ファカハッチーでパンサーやゴーストオーキッドよりも遭遇する可能性が高いのがアリゲーターだ。

ファカハッチー・ストランドは、いわば浅い、直線状の水路で、長さ約8キロ、幅が約30キロあるが、最も重要なのは60~150センチほどの深さがあることだ。そのおかげで雨季に流れ込んだ水がたまる。「シートフロー」と呼ばれるこの地域全体の水の動きが土地を水で満たし、独特の生態系を作り出す。それにより、外来植物の繁栄が可能になる。

フロリダを訪れる人の大半は、この地域は「平坦」な土地と考えているが、とても平坦だからこそ、人間が感知できないわずか数センチの地面の上昇がこの生態系を可能にする、とオーウェン氏は説明する。

そして、このプロセスにおいて極めて重要な役割を果たしているのがアリゲーターだという。

毎年春になると、アリゲーターたちは沼地の湖の中で動き回り、泥や水を使って体を冷やしたり、蚊に刺されるのを防ぐ。このアリゲーターたちの行動により、湖の深さが通常30~60センチ深くなり、より多くの水がたまるようになる。

その結果、地面が豊富に水分を含んだ状態が持続し、その環境に適した植物が生育し、鳥類を含むあらゆる種類の生物のための新たな生息環境を作り出す。

公園内にはアメリカフクロウをはじめ数多くの鳥類が生息する

イトスギの森を散策

ファカハッチーでハイキングをすると、道がまるで長い廊下のように非常に真っすぐで、幅が広いことに気付くだろう。そのためファカハッチーでは、道は「トラム(路面電車)」と呼ばれている。実際、これらの道はかつてこの地で伐採が行われていた時代に敷設された線路の跡だ。

ファカハッチーでは、1940年代から54年にかけて伐採が行われていた。ストランドで発見された原生のイトスギは、木目が細かい上に、年輪の間隔が狭く、湿潤地でも腐食に非常に強いため、「不滅の木材」と呼ばれている。そのため、漬物用のたる、競技場の座席、屋根板、ひつぎの材料にするために多くのイトスギが伐採された。

しかし、すべてのイトスギが失われたわけではない。ストランドで伐採を免れた場所は、現在ビッグ・サイプレス・ベンド・ボードウォークと呼ばれる遊歩道になっている。

ストランドの南の境界(正面玄関から車で10分)に位置する、この長さ約800メートルの遊歩道では、樹齢200年、高さ30メートル以上の原生のイトスギが見られる。

また林冠(キャノピー)には、ハクトウワシ、ミサゴ、カタアカノスリ、アメリカフクロウらが巣を作っている。

この遊歩道は家族向けで、1年中いつでも利用可能だが、特におすすめなのは、土地に水がたっぷりと染み込み、緑が生い茂る春から秋にかけてだ。


公園内を真っすぐに貫く未舗装の道/Shutterstock

サファリ気分が味わえる道

またその時期は、ジェーンズ・シーニック・ドライブもおすすめだ。ジェーンズ・シーニック・ドライブは長さ約18キロの未舗装道路で、まるでプライベートサファリ(狩猟旅行)を楽しんでいるような感覚が味わえる。

またこの道路は恐らく、フロリダクロクマやパンサーを見るのにもってこいの場所であり、特に遭遇する可能性が高いのは朝か夕方だ。またバードウォッチングにも最適で、特に3~5月がおすすめだ。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。