アフガンで失明したパラ金メダリスト、問い続ける「対テロ戦争」の意味

ブラッド・スナイダーさん(37)がトライアスロンの男子個人(視覚障害)で金メダルを獲得した/Charly Triballeau/AFP/Getty Images

2021.08.31 Tue posted at 16:45 JST

東京(CNN) アフガニスタンで爆発に巻き込まれて失明した元米軍兵が、東京パラリンピックで歴史的な金メダルを獲得した。米軍がアフガニスタンから撤退した今、20年に及んだ「対テロ戦争」に価値があったのかどうか、自らに問い続けている。

ブラッド・スナイダーさん(37)は、28日に行われたトライアスロンの男子個人(視覚障害)で金メダルを獲得した。オリンピックとパラリンピックを通じ、男子個人トライアスロンで米国が金メダルを獲得したのは初めて。ガイドを務めるグレッグ・ビリントンさんとともに、1時間1分16秒でゴールした。

水泳で何度もメダルを獲得していたスナイダーさんは、3年前にトライアスロンに転向したばかり。パラリンピックの金メダルはこれで6個目だった。

かつて米海軍精鋭の爆弾処理班に7年間所属し、イラクとアフガニスタンに派遣された。しかし2011年9月、アフガニスタンで任務中に簡易爆発装置(IED)を踏み、視力を失った。

爆発が起きた直後は、自分がまだ生きていることが信じられなかったと振り返る。「幸いなことに、けがをしたときは私1人だったので、被害は私だけで済んだ。爆発は私から少し離れた所で起きたので命が助かり、手足も助かった」

米軍が撤退したアフガニスタンは再びイスラム主義勢力タリバンの支配下に置かれ、混乱が続いている。

タリバン復権のニュースを見て悲しみでいっぱいになったというスナイダーさん。それでも米軍が永久にアフガニスタンに駐留できないことは分かっていると言い添えた。

「過去20年間の過ちを考えれば、未来への投資は正当化できない」「私たちは20年間、暴力を抑え込んできたが、安定は訪れなかった」

米軍がアフガニスタンとイラクで20年にわたって展開してきた「対テロ戦争」について、代償に見合う価値があったのかどうか確信できないとスナイダーさんは言う。「そのことにさいなまれて夜中に何度も目が覚める。特に、アフガニスタンへ行くことで人生が根本から変わってしまった人間として」

スナイダーさんは今、アフガニスタンでの戦争にその価値があったのかどうかという疑問に「筋道を通す」ため、プリンストン大学の博士課程で公共政策を専攻している。いずれは米海軍兵学校に戻り、米軍の未来を担う次世代のリーダーを育成して「明日の戦い」に備えさせたいと抱負を語った。

自身の犠牲はアフガニスタン人のためではなく、自由という概念や人権のためだと考えているという。

金メダルを喜ぶスナイダーさん(左)とガイドを務めるグレッグ・ビリントンさん=28日、東京

「その犠牲、その戦いは今も生きている。私がいなくなった後もずっと、私たちはその戦いを続けるだろう」

スナイダーさんは子どものころから米軍入隊を志し、高校生だった01年9月に同時多発テロが発生。米国の国土で二度とこんなことが起きてはならないと確信した。

しかし11年9月7日、アフガニスタン南部カンダハル近郊の地雷原で重さ40ポンド(約18キロ)の爆弾を踏み、海軍のキャリアは終わった。

視力を失えば多くの人が悲嘆に暮れるかもしれないが、自身はただ命が助かったことに感謝したとスナイダーさんは言う。「私は爆弾技術者だったので、40ポンド爆弾がどんなものかは知っている。そう考えたことで、視力のない新しい生活に慣れる最初のステップを切り抜けることができた」

苦しい時も「感謝の気持ち」を持ち続けようと努めた。「一瞬だけでも見えれば皿洗いができるのにとか、コンピューターで調べものができるのに、と考えることもある。けれど一日中考え続けてもどこへもたどり着けない」

「現実は変えられない。変えられるのは、自分がそれにどう反応するか、置かれた状況に対して自分がどう行動するかだけ」

失明した翌年の12年、スナイダーさんはロンドン大会の水泳でパラリンピックにデビュー。100メートル自由形と400メートル自由形で金、50メートル自由形で銀を獲得した(いずれも視覚障害S11)。16年のリオデジャネイロ大会では2つの金の防衛に加えて50メートル自由形でも金、100メートル背泳ぎで銀を獲得した。

軍のキャリアを絶たれて「打ち砕かれた」というスナイダーさんだが、パラリンピック出場は「自分自身を再建する」助けになったと語り、「私がパラリンピックムーブメントを気に入っている理由のひとつはそこにある。戦場を離れた私にとって、パラリンピックムーブメントは自分自身を再認識する道を与えてくれた」と振り返った。

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