あなたが最後にアフガニスタンのことを考えたのはいつか?

戦闘で住む家を追われ、カブールの一角に設置したテントで生活するアフガン人の家族/Wakil Kohsar/AFP/Getty Images

2021.08.23 Mon posted at 20:15 JST

アフガニスタン・カブール(CNN) 結局のところ、注意を払ってこなかったことが罪なのだ。

数百人のアフガン人たちが互いに押し合い、窒息しそうになりながらカブールの空港の北ゲートへ詰めかける。赤ん坊を持ち上げて、米国の海兵隊員につかみ取らせている人もいる。彼らにとって、自分たちの国とそこで起きている出来事に注意が払われていないのは分かりきったことだった。以前からずっとそうだ。

米国は特別移民ビザ(SIV)プログラムを活用して同国と協力関係にあったアフガン人とその家族を国外に退避させようとしているが、そのペースは鈍い。2020年にはしびれを切らした連邦判事がプログラムを「ねじ曲がっていて擁護できないもの」と非難し、当時のトランプ政権に対して手続きの遅れの解消を命令するほどだった。

西洋諸国に身を置いて画面の前に座り、深く息をのみながら不思議に思う人もいるだろう。なぜ米国史上最長の戦争はこれほどまでに破綻(はたん)し、排水口から水がゴボゴボと流れ出すような収拾のつかない事態に陥ってしまったのか。そうした人々は自らに問いかけるといい。最後にアフガニスタンについて考えたのはいつだったか? あるいは政治家として演説したり、または評論家として書いたり語ったりしたのは? 大半の場合はおそらくこの数日、数週のことでしかなかったのではないか。

過去5、6年間、米国のアフガニスタンにおける活動が念頭に置いていたのは、今回のような事態を防ぐのに必要最低限のことをすることだった。和平協議を途切れさせず、米軍による精密爆撃でイスラム主義勢力タリバンが主要都市に入るのを阻止する。また、今我々が目にしているような、政権が反対勢力の武力の前に(10日ほどで)あっさり倒れてしまうような事態を防いできた。

ただ表立たないところでは、当時のオバマ大統領が米軍を撤退させる方針を発表した14年以降、米国人の忍耐の残り時間は常にゼロへと進み続けていた。それが底をついたときにも大混乱が起きるとは想定されておらず、バイデン大統領も18日にそのような見解を示唆したようだ。現実には16日、滑走路を走行する米軍機の車輪にアフガン人たちが飛び乗ろうとするような、大混乱そのものの光景が繰り広げられたのだが。

望みは、米国の大衆が20年にわたる資金の投入と種々の約束について聞かされるのにうんざりしていたことと、アフガニスタン問題がひっそりと表舞台から消えていくだろうということだった。実際のところ、バイデン政権が掲げる政策の中で、それが唯一正しいと証明されるものであり続けている。

同政権はタリバンとの外交努力について見誤った。さらに米軍撤退後もアフガン治安部隊が持ちこたえられるとの間違った予測をし、ガニ前大統領に関する見通しも外した。ガニ氏はカブールが包囲される中で国外に逃げた。しかし大多数の米国民がアフガニスタンのことをそこまで心配していないという同政権の認識は、正しいものだった可能性がある。

事実バイデン政権の当局者は、今年4月に行った情報説明でごく少数の国民(同月に行われた世論調査の1つによると全体の16%)のみが米軍撤退に反対していると指摘。これはアフガンからの撤退を現実的に無条件で遂行できることを意味するとした。過去20年の間、同国で実際に任務に就いた米国人となると、その割合は一段と小さくなる。

カブール市内の環状交差路近くを車両で移動するタリバンの戦闘員

アフガニスタンをめぐる話は長い間、テレビ視聴率が取れず、読者数の伸びにもつながらないとされてきた。おそらくこのことが頭にあったのだろう。バイデン氏は16日午後、開き直り気味の短い演説をニュース向けに行うと、週末に休暇で訪れていたキャンプデービッドへと舞い戻った。

米国が口で約束することと実際にできることとは途方もなくかけ離れている。その点がこれほど並外れた形であらわになってもなお、同種の世論調査では米国民の約3分の1しか撤退に反対していないとの結果が出た。およそ半分は、それを良策だとまだ考えている。

戦略的には、良策であることを疑う余地はほとんどない。米国が同じようなその場しのぎの措置をアフガニスタンでいつまでも継続するなど無理な話だ。しかし、命を危険にさらして米国に協力した人々へのビザの手配を遅まきながら進め、タリバンとの間で外交努力を追求し、カブール陥落まで空爆を続けたという事実はすべて、撤退する前にここまではやっておかなくてはならないという段階について、米国が認識していたことを示す。実際にはその段階に到達することはなかった。もしくは、あえてそうしなかった。

1兆ドルを超える資金を投じ、20年の歳月をかけながら、なぜこの結果を変えることができなかったのか?

先週、カブール空港からの国外脱出の様子を目撃した際、筆者は米国人にとってのアフガニスタンと、鉄条網の外にある本物のアフガニスタンとのずれに改めて気づかされた。

基地の中で働いている米国人には、空港の外の状況がアフガン人にとっていかにひどいものなのかが分からない。彼らがそこにいるのは、そうしたアフガン人を空港の中に入れて安全を確保するためだ。アフガン人の多くは足止めを食い、タリバンのいる検問所を通過できずにいる。退避可能な人々の手続きを進める米海兵隊員はこの状況に気づいているが、それは彼らの落ち度ではない。いかに米国が本物のアフガニスタンと距離を置いて長年過ごしてきたのか。現状はそれを象徴している。

10年ほど前、バグラムの巨大な米空軍基地に車で行くのはまだ普通のことで、危険はなかった。アフガン駐留米軍の大部分は、同基地の広大な滑走路の周辺に拠点を構えていた。

基地に入るには、到着したゲートを確認し合う必要があった。しかし基地の外から来る人々、つまり身分証を持たないアフガン人の運転手や修理工はそれまで基地を訪れたことがなく、どのゲートをどう呼んで米国人に伝えればいいのか分からなかった。片や基地の米国人は、安全上の理由から基地の外に出たことがない。彼らは基地の外にいる我々から「市場の近くにいる。ゲートが見える。この場所でいいのか?」と連絡を受けても、どこのことを言っているのか分からなかった。

同じ問題が現在に至るまで続いている。パニックに陥ったアフガン人がカブール空港への進入を試みる光景にそれが表れている。

米軍がアフガニスタンに駐留して20年経つが、現在空港に配備され、不眠不休で警護に当たる相当数の兵士は、これまで1度もアフガニスタンに来たことがない。当然カブール空港から外へ出たこともない。

世界中の米国人や米国系アフガン人、元北大西洋条約機構(NATO)軍兵士らが、基地の外の人々に説明を試みている。基地の中でしかるべき人に会い、助けを得る方法を伝えようとしている。しかしそれを実行するのは難しい。タリバンが近くをうろついている。航空機を飛ばし続けて、米軍による退避活動を円滑に進めるには、空港の安全を維持することが極めて重要となっている。

いざアフガニスタンを去る段になってすら、米国は鉄条網の外で何が起きているのかをよく分かっていない。ただそうして守られている恩恵に、最大限あずかるのみだ。

ニック・ぺートン・ウォルシュ氏は、CNNの国際安全保障担当編集委員。過去15年間、アフガニスタンに関する幅広い報道を手掛けてきた。記事の内容はウォルシュ氏個人の見解です。

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