(CNN) 閑散とした通り、静まり返った運河、人影が途絶えた橋。イタリア・ベネチアのロックダウン(都市封鎖)中の写真はSNSで共有されて衝撃を与え、入国規制が緩和されればすぐにも同地を訪れようと多くの人が考えた。
念願かなってこの夏、米国人の入国が認められ、欧州からの旅行者も車でバケーションに出かけるようになって、ベネチアに観光客が戻って来た。
そして行列も。
週末や休日になると、市内の主要観光地は長蛇の列ができるようになった。地元メディアによると。今週は人口5万人の同市に8万人の観光客が詰めかけた。
実際のところ、長蛇の列と、それに伴う争いが大きな問題になったため、この夏は武装した警備員が配備されて雑踏への対応に当たっている。
パンデミックが始まって以来、比較的観光客の少ない状況に慣れていた同市だが、夏の初めから突如として観光客が急増すると、争いが表面化した。
イタリアは公共交通機関を利用できる乗客の数に今も制限を設けている。ベネチアのあるベネト州は「ホワイトゾーン」に分類され、定員の80%までしか乗車できない。「イエローゾーン」に分類されていた6月までは50%が上限だった。
観光客が戻り始め、行列がどんどん長くなっていた当時、腹を立てた地元住民と、人数制限を守るために乗船を認めない水上バスの乗員との小競り合いが頻発した。
「物理的に攻撃された係員もいる。つばを吐かれたり、暴言を浴びせられたり、殴られたりもした」。公共交通機関の職員でつくる労組の関係者はそう話す。
そうした職員の要請で、市内の主な乗船所に警備員が配備された。武器の携行は義務付けられていないものの、免許をもつ警備員の多くは携行を選択している。
CNNには過去数週間の間に、市内各地の水上バス乗り場で撮影された武装警備員の写真が地元住民から送られてきた。乗船待ちの行列に数百人が並んだムラーノ島やリド島にも武装警備員の姿があった。
労組の関係者によると、問題は水上バスにとどまらず、本土のバスでも同じ問題が起きているという。
乗船を待つ乗客は、ピーク時には数百人に上ることもある。CNNが取材した住民の多くはこの状況について、パンデミック前より悪化していると証言した。
7月19日には午後0時半までに市内の駐車場が全て満員になり、地元当局はツイッターを通じて観光客に対し、本土の駐車場を使うよう呼びかけた。
市内では多くの観光客が同じ場所を訪れる。ピーク時になると、ムラーノ島、ブラーノ島、トルチェッロ島に行く12号線の乗り場には何百メートルにも及ぶ行列ができる。
ブラーノ島やムラーノ島から戻る水上バスにも数百人の行列ができていた。
当然ながら、デルタ変異株が猛威を振るう中で、長蛇の列や大混雑を望む人はいない。
しかしムラーノ島の住民は、乗船待ちの行列で他人との距離を確保することは到底できないと話す。
イタリアは公共交通機関や屋内でのマスク着用を義務付けているが、屋外での着用義務は緩和された。
「屋外の行列は統制できない。マスクを着用する必要がないので、どんなに人が多くても、直前になるまで外している人が多い」と住民の女性は言う。
労組の関係者も「どんな時であれ、長蛇の列は受け入れがたい。しかしパンデミック時のこうした行列は危険だ」「観光客は何時間も行列に並び、ボートは遅れて到着する。ベネチアはいい思い出にはならないだろう」と話している。