無観客の東京五輪、経済的損失は巨額に サントリー新浪社長にインタビュー

東京五輪の無観客開催について、サントリーの新浪社長がCNNのインタビューに答えた/Jason Alden/Bloomberg/Getty Images

2021.07.22 Thu posted at 11:15 JST

香港/東京(CNN Business) 日本で最も著名な経営者の一人が、五輪はその商業的価値を失いつつあると語った。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は20日、CNN Businessの取材に応じ、同社が東京五輪のスポンサーにはならないと決断した背景に、スポンサーは高くつきすぎるとの考えがあったことを明らかにした。

「五輪のパートナーとなることを考えたものの、経済的に割に合わなかった」。そう語る新浪氏が率いるサントリーは、炭酸飲料「オレンジーナ」やバーボンウイスキー「ジムビーム」などのブランドを抱える日本の大手飲料メーカーだ。

公式スポンサー契約を結ぶ代わりに、同社は23日から始まる大会期間中に認知度を高めようと、別の道を描いていた。試合会場周辺のレストランやバーと連携して同社の飲料をプロモーションし、また同社製品だけを扱う施設もいくつかオープンさせる計画だ。

「この機会はまさに我々の展示場のようなものになると考えた」「海外から大勢の観客が訪れると予想していた」と、新浪氏は東京で行われたインタビューで語った。

だが、大会組織委員会は最近、公衆衛生上の懸念から無観客での大会開催を決定。計画はご破算となった。

新浪氏は「経済的な損失は巨額だ」と述べ、もし観客を入れていたら日本企業は約10%の売り上げ増を享受できただろうとの予測を示した。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストの推計によると、国内の観客を入れない場合、大会の経済効果は1468億円減少する。

同氏は先月のリポートで、「今年3月に海外からの観客を受け入れない方針を決めた時点で、東京大会の経済効果は相応に失われたと言える」とも指摘し、それにより1511億円の経済効果が失われたと試算した。

新浪氏は「今こそ我々は、五輪の価値とは何かを考えなければいけないときだ」と問いかけ、「私は五輪は(その)価値を失ってきていると思う」と語る。

東京大会はこれまで大きな議論の的となってきた。中止を求める数多くの抗議が起き、数千人のボランティア辞退者が出る状況となっている。

経済財政諮問会議で民間議員を務め、政府とのつながりも強い新浪氏だが、政府批判を避ける様子はない。「なぜ大会を延期しなかったのかわからない」と疑問を呈し、ワクチン接種の遅れや東京で続く熱波に言及。「(大会は)少なくとも2カ月は延期されるべきだった」との見方を示した。

緊急事態宣言下での五輪開催は物議をかもし、数多くの抗議行動も起きている

大きな賭け

日本は今月に入り、新型コロナウイルスの流行を理由に、緊急事態宣言下で五輪を開くことを決めた。

このニュースは消費支出が上向くと当てにしていたサントリーなどの企業に打撃となった。これまで東京五輪関連で、日本企業60社あまりが30億ドルという記録的な金額を支出している。そうした企業の多くは今、投資の回収に不安を抱いている。

五輪がこの夏、日本企業を押し上げる力になれると思うかと新浪氏に問うと、「ますますそう思わなくなっている」と答えた。

一部の企業は大会への関与について、真剣な再検討を迫られる状況となっている。

世界一高い放送塔、東京スカイツリーを運営する東武タワースカイツリーの新家章男氏はCNN Businessに対し、同社が昨年、この状況下でスポンサーになるべきかどうかを熟慮したと語る。

スポンサーになると決めたものの、その後さまざまなイベントを中止せざるを得ない状況に。五輪のムードを盛り上げようと屋外展望台で予定していた聖火リレーも中止となった。

新家氏は、新型コロナがあるため今は適切な時期ではなく、こうした豪華な式典を開く雰囲気でもないとの認識を示した。

英調査会社イプソス・モリが先週公表した調査結果では、日本の8割近くの人々が五輪を進めるべきではないと回答している。

こうした微妙な状況に企業は神経をとがらせている。五輪の最大手スポンサーの一社、トヨタ自動車は今週、日本で五輪関連のコマーシャルを流さず、代わりに通常のCMを放映すると発表した。

同社北米部門によれば、この決定は日本の「新型コロナ感染症の状況」を考慮して決まったものだという。

国際オリンピック委員会(IOC)の元マーケティング担当トップ、マイケル・ペイン氏は、「うまく見せかけようとしても意味がない。ご存じのとおりこれは理想的な状況ではない」と述べ、企業にとって苦しい戦いになっていることを認めた。同氏は約40年前に五輪のグローバルスポンサーのプログラムを作り上げた人物。

だがペイン氏は、企業が「この非常に難しい五輪から今後生まれてくる、潜在的なレガシー(遺産)の利益を受ける嬉しいサプライズがある可能性もまだある」とも言及し、「依然として重要な機会となっている」「それを全て除外するつもりはまだない」と語った。

東京五輪の経済的損失は巨額、サントリー新浪社長が語る

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