(CNN) 薬物中毒は5年もの間、ブレイデン・モートンさん(35)を打ちのめした。フェンタニル中毒からの脱出は、16回試みた末に、ようやく成功した。
だから愛犬の「ダーラ」を盗んだ女性がフェンタニル中毒だと知ったとき、モートンさんが選んだのは、女性のリハビリ費用を負担して、人生を救う手助けをすることだった。
ダーラは3歳のメスのチャイニーズ・シャーペイ犬。先月、モートンさんがカナダのブリティッシュコロンビア州クランブルックの自宅で仕事をしていると、自宅のゲートが開く音がして、大きな物音が聞こえた。
窓から外を見ると、デッキに寝そべって日なたぼっこをしていたダーラの姿が消えていた。急いで階段を駆け下りて外に出ると、青いトラックが走り去るのが見えたという。
ダーラを盗まれて人生が止まったとモートンさんは言う。ダーラを見つけ出すこと以外、何も考えられなくなった。
CNNの取材に応じたモートンさんは、「もう取り戻すことも、再会することもできないかもしれないと思った」と涙をこらえ、「闘犬にされるかもしれないし、もっと悪いことが起きるかもしれないと考えた。彼女を永遠に失ってしまったと思った」と振り返った。
すぐに警察に通報すると、SNSで捜索を開始するよう助言された。5000ドル(約55万円)の報酬を約束してフェイスブックで情報の提供を募ったところ、何千件もの情報が寄せられたが、ほとんどは賞金目当ての中身のない情報だった。
しかし1件だけ有望な情報があった。同じモデルの青いトラックが自動車店の駐車場に止まっていて、中に犬がいるのを見たという女性からの情報だった。
すぐに駆け付けたモートンさんだったが、このトラックの中にダーラはいなかった。
しかし翌日、非通知の番号からの電話があった。「電話に出ると、若い女性が泣いているような声がした」「この人がダーラを持っていると直感した。私は怒っていないと彼女に告げ、賞金をつかむと彼女の所へ行った」
モートンさんは警察にも通報したが、相手の女性が怖がって逃げてしまうかもしれないと思い、警官の同行の申し出は断って、待ち合わせ場所には1人で出かけた。
待ち合わせ場所で最初に目に入ったのはダーラだった。
「ダーラを見た瞬間、駆け寄って抱き上げた。信じられなかった」とモートンさんは振り返る。
しかし自分の愛犬を奪った若い女性を見ると、その目の中に昔の自分が見えたとモートンさんは打ち明ける。
「明らかに薬物中毒だった。私がハグすると彼女は言った。『なんで私みたいなクズをハグするの?』」(モートンさん)
モートンさんは、「僕も何年もの間、薬物中毒だった。君もそうだって分かるよ。君がやっていることは分かる。君を完全に許すよ」と告げたという。
リハビリ費用を負担したいというモートンさんの申し出を女性は受け入れ、2人はハグを交わして一緒に涙を流した。
王立カナダ騎馬警察の広報は、この話が実話だったことを確認し、「飼い主は、犬を返した人物に対する告訴を望まなかった」と話している。