米俳優ビル・コスビー氏、性的暴行の有罪判決破棄で釈放

性的暴行の有罪判決の破棄を受け、ビル・コスビー氏が釈放された、/Gilbert Carrasquillo/Getty Images

2021.07.01 Thu posted at 15:30 JST

(CNN) 米俳優でコメディアンのビル・コスビー氏(83)が女性に対する性的暴行の罪に問われた裁判で、ペンシルベニア州最高裁判所は30日、法的な適正手続きに違反があったとして、コスビー氏に対する有罪判決を破棄した。

「アメリカの父」ともうたわれたコスビ―氏は、セクハラ告発運動「#MeToo」運動で最初に刑事裁判を受ける著名人となった。2004年に自宅を訪れたアンドレア・コンスタンドさんに薬物を盛って、性的に暴行した疑いで起訴されていた。

州最高裁はモンゴメリー郡地方検事の05年の決定に言及し、コスビー氏が民事訴訟で証言録取に応じる代わりに同氏を訴追しないとした決定が今回の裁判でコスビー氏を攻撃する材料に使われたと指摘。「こうした状況に照らすと、その後後任の地方検事がコスビー氏を訴追する決定は、コスビー氏の適正手続きの権利を侵害した」と判示した。

コスビー氏は18年に有罪評決を受けて3~10年の禁錮刑を言い渡され、州刑務所に3年間服役していた。判決を受けてコスビー氏は釈放された。

コスビー氏は30日、白いTシャツ姿で自宅前に短時間現れたが、報道陣に言葉を発しなかった。ツイッターには写真付きの投稿を行い、支持者に感謝を伝えた。

コスビー氏の弁護士は「彼は家に戻れてとても喜んでいる」「家族全員にとってつらい3年間だった」と述べた。

被害を訴えた女性3人の代理人を務めるリサ・ブルーム弁護士は、判決は被害者の「顔を殴るもの」と批判。告発者の一人、ビクトリア・バレンティーノさんは「憤慨している」とコメントした。

他の告発者を代理するグロリア・オルレッド弁護士は、法技術的な理由での有罪判決の破棄はコスビー氏の汚名をそそぐものではないと発言。「私の心は刑事事件で勇敢に証言してくれた人々とともにある」と述べた。

訴追を担当したケビン・スティール地方検事も、コスビー氏が釈放された手続き的な問題は「犯罪の事実とは関係ない」と指摘。「被害者のアンドレア・コンスタンドさんが名乗り出た勇気をたたえたい」「同様の体験を共有した他の女性全員も同様だ」と述べた。

コスビ―氏は「#MeToo」運動で最初に刑事裁判を受ける著名人ともなっていた

裁判では昨年12月、コスビー氏が民事訴訟の証言録取に応じたのは、当時の検事が刑事訴追をしないと約束したからだとの主張が行われた。この証言録取でコスビー氏は催眠剤「クエイルード」を調達し、自分が性行為をしたいと思った女性が目的だったと認めていた。

州最高裁は、当時の担当検事は、コスビー氏がコンスタンドさんに薬を盛ってレイプしたことを合理的な疑いを越える程度に証明できないと考えたと言及。コンスタンドさんに「いくらかの正義を実現する手段」として、訴追をしないかわりに、偽証すれば罪に問われる民事訴訟での証言をしてもらうことを決めたと指摘した。

この証言録取は14年になって明らかになり、後任検事の1人が証言録取でコスビー氏が話した内容を刑事裁判で使った。

裁判官は別の救済策も考えたものの、方法は1つしかなかったと言及。「彼は釈放される必要がある。これらの特定の罪に関する将来の訴追は禁止される」と述べた。

CNNの法律専門家で連邦及び州検察官の経験があるエリー・ホニグ氏によると、州最高裁の判断を覆せるのは連邦最高裁しかない。だが、「裁判所はこの被害者について再度裁判をすることを禁じた。他の被害者の多くは時効が過ぎている」として、連邦最高裁がこの事件を取り上げる方法がないと指摘した。

コスビー氏には数十人の女性が性的な不法行為を受けたと告発したが、刑事訴追に至ったのはコンスタンドさんの主張だけだった。

コンスタンドさんは暴行を受けたとする1年後の05年に警察に被害を届け出た。結局訴追には至らず、民事訴訟で和解金338万ドル(現在の為替レートで約3億8000万円)の支払いで合意した。

だが15年にコスビ―氏から被害を受けたとする女性が次々に名乗り出てきたこと受け、新たに着任したスティール検事が訴追を行った。

事件はコンスタンドさんの証言が中心となった。証言では、テンプル大学女子バスケットボールチームの関係者だったコンスタンドさんが、同大の有力理事だったコスビー氏にキャリアの助言を得ようと自宅を訪問し、薬を盛られ性的暴行を受けたと説明した。

検察側は法医学的証拠に乏しく、コンスタンドさんの証言に頼る形となった。数十年前に暴行を受けたとする女性5人も証言台に立ち、コスビー氏の行為はこうしたパターンの一部だと証明しようと試みた。

一方、コスビー氏の弁護団はコンスタンドさんの証言の信頼性を疑い、同意の上の行為だったと反論。コンスタンドさんがコスビー氏の財産の一部を狙っているとも主張した。

陪審団は18年4月、コスビー氏に対し3つの加重強制わいせつ罪で有罪評決を下していた。

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