ヒスイ産業の支配強めるミャンマー軍、内戦とクーデターの要因に

ヒスイの品質を確かめるバイヤー=2016年7月、ミャンマー首都ネピドー/Aung Htet/AFP/Getty Images

2021.07.01 Thu posted at 07:09 JST

香港(CNN) 環境NGOのグローバル・ウィットネスは29日、ミャンマー国軍がヒスイの取引をしっかりと統制しているため、軍幹部とその取り巻きの懐を肥やすことなくヒスイを取引することは「不可能に近い」と指摘した報告書を発表した。

ミャンマーでは、世界全体の約70%に当たるヒスイが産出され、その市場規模は数十億ドル相当に達する。増加する需要の大部分は隣接する中国からのものだという。

だが、内戦や腐敗、採掘作業における環境破壊により、同国のヒスイ産業は破滅的な状況にある。また国内各地から集まり、その多くが貧困にあえぐ鉱山労働者らは、地滑りによるけがや死の危険にさらされている。現場では搾取や虐待、薬物中毒がまん延しているという。

環境NGOのグローバル・ウィットネスが発表した、「宝石と紛争:ミャンマーの悪循環」と題された報告書では、国軍が実入りの多いヒスイ産業への支配を強めていき、今年2月1日のクーデターに至った数年の道のりを明らかにしている。

2015年の画期的な報告書を増補する形で発表された今回の調査は、ヒスイ産業における腐敗がここ数年で劣悪化する中、クーデターの首謀者である国軍のミンアウンフライン最高司令官の一族が賄賂により利益を得ていると主張。

報告書の執筆者であるキール・ディーツ氏は、「われわれが明らかにした、国軍が数十億ドル規模のヒスイ取引に対してますます支配を強めている事実は、ミャンマーの経済にとって価値ある産業部門を国軍がより広い範囲にわたって掌握したことを象徴しており、それが権力乱用の元手となり、内戦においては火に油を注ぎ、違法な権力の奪取を可能にする一助となった」と説明した。

同NGOは、クーデターが採掘地域における戦闘を再燃させ、業界をさらに動揺させていると指摘。

報告書では、「銃で武装した男たち」が支配する地域で危険かつ違法で不正な活動がはびこり、「恐怖や暴力的な空気」で覆われ、戦闘によって荒廃し、ヒスイによってそれに拍車が掛かった無法地帯の実態が記されている。

CNNは独自にこの報告書の信ぴょう性は確認できていない。

重機でヒスイの採掘を行う人々=2015年10月、ミャンマー・カチン州

ヒスイ採掘に熱狂する武装組織

アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が16年に政権の座に就いた際、政府は透明化を図ったり、採掘認可を一時的に停止したり、宝石に関する新法を起草したりすることで、ヒスイ産業の改革を試みた。

だが報告書は、国軍や業界の激しい反発に直面したことで一連の改革が不十分なものになったと指摘。改革のプロセスが行き詰まって生まれた権力の真空に乗じて、軍や少数民族の武装勢力は先を争って業界への支配を強めようとしたという。

16年の総選挙後に起きたヒスイの産出ラッシュでは、数十年にわたって戦闘を繰り広げてきた宿敵同士が、採掘許可が失効する前に可能な限り多量のヒスイを掘り出そうと協力していた。

だがクーデターの後、この状況は一変し、産地であるパカン地方を含むカチン州各地で戦闘が勃発した。

熱狂的な採掘競争により、パカン地方では企業が採掘における危険な労働慣行を増加させ、安全対策に手を抜く結果となり、「鉱山労働者の間で、深刻な事故や命を失う事態」につながっている。

クーデターが発生する以前、また新型コロナウイルスが感染拡大する以前には、一獲千金を狙う最大40万人の出稼ぎ労働者が毎年、同地方を訪れていた。鉱山では、地滑りなどの死亡事故が当時からすでに多発していたが、報告書によると過去5年間で状況は悪化。

採掘場所の近くで暮らす出稼ぎ労働者=2020年、ミャンマー・カチン州

規制が緩んで野放図な採掘がおこなわれたことがその原因で、結果は深刻なものとなり、19年4月、および20年7月に発生した大規模な地滑りでは、合わせて200人超が死亡した。

腐敗は上層部にまで到達

ヒスイ産業は、その利益が課税されることなく武装組織や政治的支配層に流れ、同国北部で長引く内戦を煽る一因となっており、腐敗と犯罪のうわさに長い間つきまとわれていた。

グローバル・ウィットネスは、ミンアウンフライン最高司令官の一族が、地下経済から私的に利益を得ていることを示唆する証拠を発見したと主張。「もし本当なら、ミンアウンフライン最高司令官の手中にあるこの産業について警鐘を鳴らす、恥知らずな腐敗の例証だ」としている。

同NGOは、国軍およびミンアウンフライン最高司令官が同国を掌握する現在、クーデターによって最高司令官とその一族に、業界全体を自分たちのための宝箱に変える白地小切手が手渡されたと指摘。

「ミンアウンフライン最高司令官は、ここ数年の間に世界全体でみられた人道に対する犯罪のうちでも、最悪レベルのものを複数取り仕切ってきた。そして今、彼は軍事政権による暗い日々に再び引き戻す危険に同国を陥れたクーデターを率いている」と述べた。

報告書は、クーデターを受けて「NLDの改革は今や死に絶えた」とし、ヒスイ産業における真の改革への希望は消え失せてしまったと指摘。

グローバル・ウィットネスは、国際社会に対し、ミャンマーで採掘されたヒスイなど全ての宝石類の輸入を禁止し、国軍がヒスイや他の天然資源に関連する産業から利益を得るのを制限する政策を採用するよう呼び掛けている。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。