人とゾウの接触で年間500人が死亡、解決模索するインド

インドで、ゾウと人との接触が急増して年間およそ500人が命を落とす事態となっている/Diptendu Dutta/AFP/Getty Images

2021.06.23 Wed posted at 08:36 JST

(CNN) ゾウといえば一般的にはおとなしい動物とみなされる。だがインドではゾウと人との接触が急増し、年間およそ500人が命を落としている。

インドは世界最大のアジアゾウ生息国。絶滅危惧種に指定されたアジアゾウは、農業やインフラ建築によって森林が破壊され、生息地がある13カ国全体で頭数が減少している。インドの人口は14億人近くまで膨れ上がり、野生生物の生息地に食い込むようになった。

「インドで最大級の問題は、野生生物のために残された土地が5%に満たないことだ。保護区の隣接地や保護区内に住む人は数百万人に上る」。野生生物研究センター(本部・ベンガルール<バンガロール>)のクリシ・カランス代表はそう語る。

同国には100以上の国立公園と、約30のゾウ保護区がある。しかしインドに生息するゾウ3万頭の多くは保護区の外にすみ、餌を探せる場所は縮小の一途にある。それが人との接触につながっている。

夜間に農地に侵入

ゾウは1日で約150キロの餌を食べる。ほとんどは草や木の葉、樹皮などが中心だが、栄養価の高いサトウキビやコメ、バナナなどの作物には特に引き付けられる。

農民は自分の作物を守るためにゾウを追い払おうとして命を落としているほか、夜間歩いて帰宅途中にゾウに遭遇して死亡する人も後を絶たないという。

野生生物保護団体のサンディープ・クマール・ティワリ氏によると、アジアでゾウのために死亡した人のうち、インドでの死者は70~80%を占める。

インドでは毎年約50万世帯が、ゾウに作物を荒らされるなどの被害に遭っている。人とかかわって死ぬゾウは年間80~100頭。毒殺されたり感電死したり、列車にひかれたりすることもある。

補償金の受け取りを支援する制度を創設したクリシ・カランス氏(左)

人とゾウが平和的に共存できる道を探すためには、政府や保護団体、国民が力を合わせ、長期的・短期的な解決策を打ち出す必要があるとティワリ氏は指摘する。

効果的な解決策は

農家は照明や騒音を使ってゾウを追い払ったりしているが、ゾウが慣れれば効果は薄れる。

チリやレモン、ショウガなどゾウが好まない作物を植えたり、溝を掘ったり、近くにゾウがいることを知らせる警報システムを設置したりして、ゾウを寄せ付けないようにする対策も講じられている。

インド政府は野生生物の被害に遭った世帯に補償金を支給しているが、それを受け取るためには相当面倒な手続きが必要だという。

そこでカランス氏は、地域住民による補償金の受け取りを支援する制度を創設。無料の相談電話を設けてスタッフが被害額を算定し、必要書類の提出を支援している。この制度を通じ、過去5年半で約1万8000件の申請を行い、約80万ドル(約8800万円)相当の補償金を受け取ることができたという。

長期的には、森林地帯やゾウが移動するための「回廊」を再生し、保護することが、衝突を減らすための最も有効な対策になるとティワリ氏は言う。そうした生息地や回廊が保護されれば、農地に迷い込むゾウも減る。

ティワリ氏の団体は環境省などと手を組んで、そうした回廊101カ所を特定し、自治体や政府機関と連携しながら保護対策を進めている。野生生物のための地下道を設けた道路などのインフラを設計することも、そうした回廊を守る役に立つ。

インドでゾウは聖なる動物とみなされ、作物を荒らすゾウに対する寛容性も一般的には高い。「この動物に対しては宗教的、文化的に深い親近感がある」「この親近感から、人がゾウのためにもっと行動してくれることを期待する」とカランス氏は話している。

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