東京五輪 新型コロナ懸念でボランティア辞退も

東京五輪・パラリンピックで一部のボランティアから辞退の動きが出ている/CARL COURT/GETTY IMAGES

2021.06.16 Wed posted at 20:45 JST

東京(CNN) 東京五輪・パラリンピックがボランティアを呼び掛けたとき、ニマ・エズナシャーリさんは日本の数千人の希望者とともに申し込みを行い、世界最大級のスポーツイベントの雰囲気を味わおうと思った。

しかし、大会が近づくにつれて、新型コロナウイルス感染症に感染するリスクが心配になってきた。エズナシャーリさんは日本の大部分の人々と同じように新型コロナウイルスのワクチンを接種しておらず、7月23日の開幕前にワクチンを接種できるのかどうかもわかっていない。

兵庫県で語学教師を務めるエズナシャーリさんは「五輪は大好きだ。しかし、新型コロナウイルスに感染したくはない」と語る。

日本は新型コロナウイルスの「第4波」と闘っている。新型コロナウイルスは5月のときほど感染は拡大していないものの、毎日2000人規模の新規感染件数が報告されている。五輪開催まで数週間となったが、少なくとも1度ワクチンの接種を受けた人口の割合は10%に満たない。

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、調整を担う河野太郎行政改革相は、毎日80万回の接種が行われており、6月末には1日当たりの接種回数が100万回に達するとの見通しを示した。しかし、このペースで行っても、日本で五輪開幕までにワクチン接種を終えた人の割合は20%に満たない。

大会組織委員会は審判やスタッフ、ドーピングの検査員、一部のボランティアなど1万8000人にワクチンを接種する計画だ。しかし、7万人規模のボランティア全員にワクチンがいきわたることは難しいそうだ。何人のボランティアがワクチンを接種できるのかもわかっていない。

五輪のボランティアには8万人が申し込んだが、少なくとも1万人がボランティアを辞退した。辞退した理由の大部分は新型コロナウイルス。

ボランティアによれば、新型コロナウイルスに対する保護はほとんど与えられていない。受け取ったのはマスクと手指消毒剤、他者と2メートルの距離を確保するよう指導するパンフレットだけだ。五輪のウェブサイトはボランティアに対して、自宅から会場まで公共交通機関を利用するよう呼び掛けている。

医師らからは、これほど多くのワクチン未接種の人々が選手村を出入りすることに対するリスクを警告する声があがっている。五輪によって既にひっ迫している医療制度が破たんするかもしれないとの懸念も出ている。

大会組織委員会は約1万人のボランティアの辞退も、新型コロナウイルスの感染抑止に向けた規制で海外からの観客の受け入れを禁止するなどしたため、大会運営に影響を及ぼさないとみている。

大学生のハタケヤマ・ジュンさんは五輪のボランティアに申し込んだとき、国の誇りに満ちて、自分の国に世界最高のアスリートを迎えることができて興奮した。

しかし、ハタケヤマさんによれば、次々と問題を目にして、熱意はだんだんと不安と幻滅に変わった。五輪は運営費用が急増したほか、森喜朗前会長による性差別的な発言があり、今では、新型コロナウイルスの感染件数が急増しているにもかかわらず、大会組織委員会は大会開催へ突き進んでいる。

ハタケヤマさんは意見を表明するためにボランティアを辞退した。

ニマ・エズナシャーリさんはボランティアの辞退を考えているという

ハタケヤマさんは「五輪は人命を軽んじている。われわれの生活は通常ではなく、今は緊急事態だ。なぜ、今、東京五輪を開催できるのか」「五輪の意味が完全に忘れ去られたと思う」と述べた。

しかし、もっと楽観的なボランティアもいる。トラベルライターで写真家のフィルバート・オノさんは「すべての可能な安全措置が実施されると信じている。わたしはすべての手続きに従う。だから、危険性はとても小さくなると確信している」と述べた。

大会組織委員会は、五輪は安全な「バブル方式」で実施できるとしている。また、選手は定期的に検査を行い、接触を追跡し、社会的距離を確保する。五輪開始までには選手の80%超がワクチン接種を行っているとみている。

しかし公衆衛生の専門家は、バブル方式には多くの抜け穴があると指摘する。特に、大半がワクチン未接種で検査もしていない数万人のボランティアが五輪会場を行き来した場合を問題視している。

豪バーネット研究所の伝染病学者マイク・トゥール氏は「たとえ観客がいなくても、バブルではない。あまりに多くの漏れがある」と指摘。7万人のボランティアが地元から近隣を移動して五輪会場に入るが、そのうちの約20%がワクチン未接種なら、危険性の高いシナリオもあり得るとの見方を示す。

医療従事者からの警告の声は増え続けている。東京都の約6000人の医師を代表する東京保険医協会は公開書簡で東京五輪の中止を呼び掛けた。

政府の対策分科会の尾身茂会長は、パンデミックのところで五輪をやるのは「普通ではない」との見方を示した。

五輪が近づくなか、ワクチン接種の計画も進んでいる。

しかし、1日あたり100万回の接種を行う能力があっても、人々にワクチン接種を促す困難が待ち受けている。

日本では4月、65歳以上の高齢者を対象としたワクチン接種が始まった。しかし、これまでにワクチン接種を行った高齢者の割合は3分の1にとどまる。河野行政改革相は一部でワクチン接種にためらいがみられることを認めている。

東京と大阪に設けられた大規模接種センターでは17日から65歳未満の人も対象に接種を始める。

菅義偉首相は、新型コロナウイルスのワクチンについて10月から11月にかけて、希望者全員が接種できるようにしたいとの考えを明らかにした。

エズナシャーリさんは大会中は東京での友人宅に滞在することを計画していた。新型コロナウイルスの流行前は友人らは前向きだったが、今では、「1日何千人もの人たちと交流する可能性のある人と暮らしたいのか」と考えているようだという。

ドイツ日本研究所の副所長を務めるバーバラ・ホルトスさんもボランティアの辞退を考えている。自分自身や家族を守る必要があると語るホルトスさんは「スポーツイベントを開催するには全く適していない時期だ。世界が傷ついているときに、完全に間違ったメッセージだ」と述べた。

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