16年前の麻薬密売人、弁護士に就任 支え続けた判事の前で 米ミシガン州

かつて犯罪者として判決を受けた同じ裁判所で弁護士に就任したマーテルさん(左)/Perkins Law Group

2021.06.03 Thu posted at 07:57 JST

(CNN) 米ミシガン州ウェイン郡の裁判所で5月28日、1人の新任弁護士の就任式が行われた。スーツ姿のエドワード・マーテルさん(43)は、ブルース・モロウ判事の前に立ち、片手を挙げてミシガン弁護士会の弁護士に宣誓就任した。

16年前、同じウェイン郡の裁判所で、マーテルさんはモロウ判事の前に立ち、コカイン販売と製造にかかわった罪を認めていた。

当時27歳だったマーテルさんは、麻薬のおとり捜査で逮捕・起訴され、20年の禁錮を言い渡される可能性もあった。ところが思いもかけず言い渡されたのは、3年の執行猶予と励ましの言葉だった。この言葉がマーテルさんの人生を変えた。

「モロウ判事は変わった人だとすぐに気付いた」とマーテルさんは振り返る。「法廷に入って見ていると、彼が被告人を本当の人として扱っていることに気付いた。ああ、この裁判官は違う、と思った」

モロウ判事からかけられた言葉は一生忘れないとマーテルさんは言う。「あなたはこんな所でドラッグを売っている必要はありません。あなたは素晴らしいものを持っています。課題を出しましょう。フォーチュン500社のCEO(最高経営責任者)になりなさい」

裁判所を出たマーテルさんは、変わる決意ができていた。人生のもっと幸せな章に向けて。

マーテルさんはモロウ判事の言葉を励みにロースクールへ進学。司法試験を突破した

その日以来、モロウ判事はマーテルさんに寄り添ってきた。自分の電話番号をマーテルさんに教え、「君がやっていることを知りたい。君の人生に私を居させてほしい」と告げた。モロウ判事はCNNの取材に対し、「私はエド(マーテルさん)にチャンスを与えた。誰もが偉大な人間性をもって大切に扱われる価値がある」と話した。

マーテルさんは定期的にモロウ判事の法廷を訪れるようになった。一緒に昼食をとり、何時間も会話してお互いのことを話し合った。

マーテルさんはメキシコ系で、シングルマザーに育てられた。家は貧しく、生活保護でしのぐ日々だった。初めて重罪で有罪判決を受けたのは13歳の時。2年後には別の重罪で有罪を言い渡され、その後高校は退学して家を出た。

モロウ判事に出会うまで、麻薬密売が人生の全てだった。「たくさんの裁判官の前に立った。少なくとも20人は」(マーテルさん)

モロウ判事はマーテルさんのコミュニティーカレッジ入学から、デトロイトマーシー大学の奨学金獲得、クラスでトップの成績での卒業に至るまで、成長を見届けた。

宣誓就任の後、抱擁を交わすマーテルさんとモロウ判事

マーテルさんは同大ロースクールに進学して奨学金を受け取った。弁護士としての道徳心を問う人格・適正審査では、モロウ判事が証人になった。応援してくれる人を見つけ、自分の信念をつづった願書を提出し、合格を通知されたときは「赤ん坊のように泣いた」という。

2度目の挑戦で司法試験を突破したマーテルさん。ゴールは目前だった。

宣誓就任式当日。母親やきょうだい、自分の子どもたちを伴ってモロウ判事の法廷に足を踏み入れたマーテルさんは、こみあげてくる感情を抑えるのに必死だった

モロウ判事は言う。「私たちは2人ともものすごく幸せでものすごく興奮していたが、全然たいしたことではないかのように、冷静さを保とうと努めた」「もしエドが口紅をつけていたら、両耳に口紅の跡が付いたはずだ。それくらい大きな笑顔を浮かべていた。あの顔は一生忘れない」

簡単なスピーチの後、マーテルさんは宣誓就任した。判事とかつての犯罪者は、互いを抱きしめて涙を流した。

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