太陽光パネルの供給網、新疆の強制労働に依存か<下> 汚れたサプライチェーン

生産ラインで太陽電池セルの最終検査を行う従業員=2015年、江蘇省/Tomohiro Ohsumi/Bloomberg/Getty Images

2021.05.29 Sat posted at 20:15 JST

(CNN Business) 今回の報告書では、強制労働疑惑の影響が太陽光パネルの供給網(サプライチェーン)全体に及ぶ一例として、新疆の企業ホシャイン・シリコン・インダストリーが挙げられている。ホシャイン社は金属級シリコンの世界最大の生産者。金属級シリコンは採掘した石英を砕いてつくられる素材で、ポリシリコンの主要メーカーに売却される。

報告書は、中国政府が農村の「余剰」労働力をホシャインの工場に配置していると指摘。そこに引用された中国国営メディアの2017年の記事によると、ある地方政府機関は、余剰労働力の訓練プログラムにより労働者5000人を同社に供給できると説明したという。

ホシャインはまた、地方政府と同様の機能を持つ準軍事複合企業の新疆生産建設兵団(XPCC)から、「農村余剰労働力」に実施した訓練の補償金を受け取っている。米財務省の外国資産管理室は昨年、新疆の「少数民族に対する深刻な人権侵害」に絡み、XPCCに対する制裁を発動した。

報告書は政府が同社に代わって行う採用活動について、「非自発的な労働を示唆する抑圧的な戦略に基づくもの」と指摘する。

新疆にあるホシャインの施設では、肉体労働者が1トンにつき42人民元(約6.5ドル=約700円)の支払いを受けて手作業でシリコンを砕いているという。

ホシャインの工場は新疆のトルファン市付近にある工業団地に位置する。報告書によると、ホシャインの工場はこの工業団地の北部地区にあり、そこから数キロ離れた団地の南部地区には、新疆の少数派への虐待疑惑を調べる豪戦略政策研究所(ASPI)によってウイグル族「再教育」のための収容施設と特定された2施設もある。報告書では、団地内にあるホシャインの工場の労働者が直接、これらの収容施設から来ているのかは不明としている。

ホシャインに報告書についてCNN Businessからコメントを求めたが、返答はなかった。


Sources: Maxar Technologies (satellite image), “In Broad Daylight: Uyghur Forced Labour and Global Solar Supply Chains” by Laura Murphy and Nyrola Elimä, Australian Strategic Policy Institute

金属級シリコンをポリシリコンに純化する過程では、極端な高温と電力の大量消費が必要となる。報告書によると、新疆には政府の補助金を受ける巨大な石炭産業があり、その点も新疆が太陽光パネル部品の拠点になっている理由の一つだという。

ホシャインはこの地域の主要な原材料供給業者の一つ。このため報告書では、同社の施設で強制労働でつくられた疑いのある部品が、他の太陽エネルギー企業の販売する製品に入り込んでいると主張している。

こうしたホシャインの顧客の一つがダクォ・ニュー・エナジーだ。同社は上場企業で、調査会社バーンロイター・リサーチによると、2020年にはポリシリコンメーカーで世界3位の規模となった。ダクォの原材料の3分の1はホシャインから調達されており、中でもポリシリコンは100%が新疆で生産されていると、報告書は指摘する。

ダクォの幹部は、新疆にある同社の施設で強制労働が利用されているとの主張に反論。取締役会書記でIR責任者のケビン・ヒー氏は研究チームのコメント要請にメールで回答し、同社は国主導の労働力移転プログラムに参加しておらず、新疆の施設の従業員2021人のうち民族的少数派は18人のみだと述べた。

しかし報告書の著者らは、ダクォ社自身の慣行にかかわらず、ホシャインから原材料を購入している以上、製品に強制労働の影響がないと保証することはできないと指摘する。

報告書の著者の1人、マーフィー氏は「ダクォのサプライチェーンは汚染されており、今後はもう誰もその点から目をそらさないだろう」と語った。

新疆の石河子市にあるダクォ・ニュー・エナジーの施設

ダクォのヒー氏は研究チームに対し、「新疆内の全サプライヤーに正式な文書を送り、強制労働や児童労働、差別、セクハラ、従業員への不公平な待遇は一切容認しない方針を明示した」と説明。全サプライヤーから、こうした「中国でも違法」な慣行には関与しないと「書面で正式な確認」があったと述べた。

さらに「『強制労働』には非常に明確な定義がある」「ある企業が特定のプログラムに関与したり特定の補助金を受け取っているかどうかだけで、強制労働の有無を判断すべきではないと信じる。特定の組織または個人に対して今回のような主張がなされる場合、違反の明確な証拠が必要となる」としている。

ダクォはCNN Businessからの質問に対しても回答し、ホシャインを含む新疆のサプライヤーに前述の容認しない方針を伝えていると説明するとともに、ホシャインからはシリコンパウダーなど原料全体の約30~35%を仕入れていると言及した。

ダクォ社は世界の4大太陽光パネルメーカーである中国ロンジ・グリーン・エナジー・テクノロジー、ジンコソーラー・ホールディング、トリナ・ソーラー、JAソーラー各社にポリシリコンを販売する契約を結んでいる。


Sources: Solar Energy Industries Association, “In Broad Daylight: Uyghur Forced Labor and the Solar Supply Chain” by Laura Murphy and Nyrola Elimä, Getty Images, Shutterstock

報告書に引用された企業文書によると、ジンコソーラーはダクォの2番目の顧客で、太陽光パネル(あるいは「モジュール」)を構成するインゴットやウェハー、セルのメーカーとして世界最大級の規模を誇る。同社はインゴットやウェハーのうち42%を新疆で生産しているという。

ジンコソーラーのパネルは流通業者を通じて、世界中の住宅や商業施設、電力会社での太陽光プロジェクトに供給される。公式サイトによると、同社の太陽光パネルはたとえば、カリフォルニア州やアリゾナ州の太陽光発電所で使われているという。

ただ、ジンコソーラーの米国部門は、米国で販売・設置される製品に新疆で調達した部品や材料は含まれていないと説明。米国部門の広報はCNN Businessへの声明で、サプライチェーンの監査や調査を行う措置を「継続的に」実施しており、「強制労働は一切容認しない」方針だと述べた。

再生可能エネルギー発電企業のエスパワーはジンコのパネルを使った太陽光発電所を数件所有する。同社もジンコソーラーが実施するサプライヤーに対する資格付与とトレーサビリティー(追跡可能性)の手順により、購入した製品に強制労働のリスクを伴うものはないと繰り返す。

報告書によると、ダクォの他の3主要顧客のうち、新疆に製造工場を持つのはトリナのみ。ただし報告書によると、同社が労働力移転プログラムに関与しているかは不明だという。

ロンジやJAソーラーのように新疆に施設を持たない企業の場合も、新疆で工場を運営しホシャインから原材料を購入するダクォからポリシリコンを調達している以上、「汚染」されている可能性がある。

トリナ、ロンジ、JAソーラー、ジンコソーラーの中国本社に報告書についてCNN Businessがコメントを求めたが、返答はなかった。

前述のエリマ氏は「この地で投資を続けるのは非倫理的だ。収容所のある国とビジネスはできないし、収容所がある地域ではなおさらだ」と語る。

国際的な対応

太陽光パネルは、より環境に優しいエネルギーへの移行を目指すバイデン米大統領の計画にとって要となる。

バイデン氏が提案した2兆ドル規模のインフラ計画には、気候変動につながる炭素排出をしない燃料で2035年までに全電力を生み出すよう、各州に求める条項が含まれる。こうした移行により、太陽光発電や風力発電への支出は少なくとも倍増するとみられている。


欧州も同様の野心を持つ。欧州委員会の「2030年気候目標計画」では、太陽などの代替エネルギー源に依拠することで、温暖化ガスの排出量を1990年の水準から少なくとも55%減らすと表明。中国も2060年までに炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。

太陽エネルギーの採用が加速する今、サプライチェーンに強制労働が含まれないようにするのが急務となっている。

ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は12日の議会証言で、新疆での太陽光パネル生産に強制労働が関わっている疑いをめぐり、バイデン政権が中国に対する制裁を検討していると述べた。

米連邦議会は現在、「ウイグル強制労働防止法」の法案を審議中。同法が成立すれば、輸入企業が強制労働で作られた製品でないことを証明できない限り、新疆からの製品は禁止されることになる。

法案提出以来、太陽光発電の業界団体「太陽エネルギー産業協会(SEIA)」は米国の太陽光企業に対し、新疆からの部品輸入を避けるよう促してきた。そう語るのは同協会の市場戦略部門幹部、ジョン・スマーナウ氏だ。

スマーナウ氏はCNN Businessに対し、「(新疆の)太陽光サプライチェーンとの関連が指摘される強制労働について懸念がある。そのせいで新疆の製品は非常にハイリスクになっている」と説明。「このリスクに対処する唯一の方法は、強制労働は存在しないと示すことだが、そのためには独立した第三者の監査人が必要となる。新疆でそれは不可能だ」と述べた。

ホワイトハウス前で「新疆の虐殺をやめろ」と書かれたプラカードを掲げる在米ウイグル人協会のメンバー

SEIAは先月、製品に使われている部品の調達先を顧客に証明するのに使える「ソーラー・サプライチェーン・トレーサビリティー手順」を公表。「米国に輸入される製品にあの(新疆の)地域から来るものはなく、強制労働で作られたものはないと保証できるツールを加盟各社に提供したかった」とスマーナウ氏は語る。

太陽光のサプライチェーンに強制労働はないと保証するための行動呼びかけには250社近い企業が署名した。これにはジンコソーラーの米国部門やJAソーラー、ロンジ・ソーラー・テクノロジーズの米国部門、トリナ・ソーラーの米国部門、エスパワーが含まれる。

こうした署名により、ほぼ産業全体でこの問題に対処していくことが約束されたことになる。一方で、署名企業の多くは新疆の強制労働で作られた原材料を買わないようにするため「大きな変更に迫られる」とも報告書は指摘する。

今回の報告書の目的は、SEIAの手順を実行しようとする企業に対して、サプライチェーンに潜む問題点の特定を支援する点にもあった。

専門家によると、欧米のニーズを満たす助けとなる太陽光パネル部品の供給業者は新疆や中国以外にも存在する。しかし、中国が新疆での操業に補助金などの支援を提供していることを踏まえると、よそからの調達はコストがかさむ可能性がある。

新疆は世界の太陽光パネル供給網と密接に絡み合っており、供給システムから完全に切り離すのは難しそうだ。ジンコソーラーを例に取ると、同社米国部門の幹部はSEIAの理事に名を連ねている。SEIAは米国の太陽光企業に新疆からの部品購入停止を呼び掛けており、ジンコも先月、強制労働排除などを掲げる「国連グローバル・コンパクト」に加わった。だが、ジンコは依然として新疆で工場を操業し、ダクォからポリシリコンを調達しているのが実情だ。

ジンコソーラーに新疆での操業や部品調達を停止する計画があるかコメントを求めたところ、同社米国部門の広報は、米国向けのサプライチェーンでは新疆から部品を調達していないと改めて説明。「ジンコには労働慣行で業界をリードしてきた強力な実績がある。自発的な雇用、一律の割増賃金や福利厚生、工場の全従業員に対する定期休暇などだ」と述べた。

バイデン政権は現在、米国でグリーンエネルギーの使用を拡大する方法を検討中。研究チームやSEIAのスマーナウ氏は、米国内での太陽光パネル部品製造に投資することで、責任ある成長の確保につながる可能性があるとの見方を示す。

研究チームのマーフィー氏は「中国政府が新疆で収容所や強制労働プログラムを運用している限り、いかなる企業もそこに工場や子会社を持つべきではない」と指摘。「絶対にだ」と強調した。

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