クロエ・ジャオ監督のアカデミー賞受賞、中国で祝福の声上がらず

ジャオ監督は英米で教育を受け、ニューヨーク大学で映画製作を学んだ/Matt Petit/A.M.P.A.S./Getty Images

2021.04.27 Tue posted at 11:41 JST

香港(CNN) 今年の米アカデミー賞は中国・北京生まれのクロエ・ジャオ監督が監督賞を受賞した。非白人女性としてもアジア系女性としても初となる歴史的な受賞だった。同監督の作品「ノマドランド」は作品賞にも選ばれた。

ただ中国はこの快挙を祝福していない。少なくとも公式には。

ジャオ監督の受賞は世界中で報じられたが、中国国営メディアがこの話題について沈黙を守っているのは明らかだった。受賞から数時間が経過しても、国営新華社通信や中国中央テレビ(CCTV)のウェブサイトにそのニュースが掲載されることはなかった。ソーシャルメディアではこの情報に関する投稿は遮断されている。

3月にジャオ監督がゴールデングローブ賞の監督賞を受賞した時には、中国国営メディアはすぐにこれを祝福していた。環球時報は同監督を「中国の誇り」と呼んだ。

しかし称賛の声は長く続かなかった。中国のネットユーザーが探し当てた2013年の米映画誌とのインタビュー記事で、ジャオ監督は子ども時代を過ごした中国について「嘘だらけのところ」と、批判ともとれる発言をしていた。

さらにより最近の豪メディアとのインタビューでは、米国が「今は自分の国だ」と語ったと報じられた。これは引用の誤りで、実際の発言は米国は「自分の国ではない」だったとメディア側は訂正したが、否定的な印象は残った。

こうした記事の内容を受け、中国の国家主義的なネットユーザーはこぞってジャオ監督を攻撃。「中国を中傷している」として、映画のボイコットを呼びかける声も上がった。

ジャオ監督は英米で教育を受け、ニューヨーク大学で映画製作を学んだ

ほどなくして中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」からは「ノマドランド」の宣伝素材が消えた。同作は今月23日に中国で公開予定だったが、国内の主要な映画サイトから情報が削除され、26日時点で近日中の上映についての案内はない。

8年前のたった1つのコメントでジャオ監督の功績が否定される現状は、現政権下の中国で国家主義的な機運がいかに広がっているかを示唆している。

コメントに加え、中国共産党の目にはジャオ監督の比較的恵まれた生い立ちや西洋式の教育を受けてきた経歴も、中国人のサクセスストーリーとして利用するには理想的なケースに映らなかったのかもしれない。

ジャオ監督は英国と米国の学校に通い、ニューヨーク大学で映画製作を学んだ。こうした経歴は、ほとんどの中国人にとって実現不可能なものだ。

ジャオ監督への批判のほかにも、今年のアカデミー賞は中国政府にとって政治的な悩みの種となる作品がもう一つあった。香港の2019年の民主化デモを記録した「不割席」で、短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされていた。

このノミネートがアカデミー賞を報じない要因となったのかはわからない。だが、国際長編映画賞には中国の映画「少年の君」が同部門で約20年ぶりのノミネートを受けていたにもかかわららず、ウェイボーの人気トピックのトップ50に同賞は入ってこなかった。

それでもウェイボーの非公式アカウントでジャオ監督の受賞のニュースがシェアされると、多くのユーザーがジャオ監督を祝福するコメントを残した。ただ、投稿はすぐに検閲対象となり、数時間以内に消えた。

クロエ・ジャオ監督のアカデミー賞受賞、中国メディアは祝福せず

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。