「真夜中の子供たち」から40年、ラシュディ氏が振り返る独立後のインド

「真夜中の子供たち」の著者のラシュディ氏が、インドと世界の現状について語った/PA Images/Alamy Stock Photo

2021.04.05 Mon posted at 20:30 JST

(CNN) 小説「真夜中の子供たち」の出版から40年。作家サルマン・ラシュディ氏は今、自分の育ったインドは「崩壊」しつつあると語る。

「真夜中の子供たち」は、1947年の英領独立からインディラ・ガンディー首相の波乱に満ちた任期まで、30年に及ぶインドの歴史を作品世界に包含する。英文学賞のブッカー賞を受賞するなど、高い評価を受けてきた。

主人公のサリーム・シナイは1947年8月15日の真夜中、英統治からのインド独立と同時に誕生。ラシュディ氏によると、シナイとインドは双子のようなもので、何らかの形で結びつきを持つという。

「私はこうした、一家と主人公の子どもの人生がインド、パキスタン両国の現実の歴史に投影される作品構造をつくり出さずにはいられなかった」

同書の出版40周年に合わせ、CNNはラシュディ氏にインタビューし、インドの政治情勢や世界での言論自由の重要性、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動に関する見解を聞いた。

ラシュディ氏の幼少期からインドで何が変わったのか

「真夜中の子供たち」の執筆に5年近くをかけたというラシュディ氏。自身も主人公も、インド・パキスタン分離独立後のボンベイ(現ムンバイ)で生まれ育った。「当時は美しい都市だった。目立った住民間の対立もなく、今より幸せだったと思う」と語る。

当時を振り返り、ラシュディ氏は「宗教はほとんど問題になっていなかった。それに近い友人にはあらゆる宗教の信者や無宗教者がいて、ヒンドゥー教徒にキリスト教徒、イスラム教徒、シーク教徒、あらゆる種類の子どもがいた」と回想する。

ラシュディ氏は人種的公正や言論の自由の擁護者として知られる

しかし、今では多くが変わった。

「私の若い頃にあった宗派にとらわれない雰囲気はほぼ消えた」「多数派のヒンドゥー教徒と少数派の対立は激増した。悲しい時代と呼ぶべきだろう。私のような人間が育ち、ほぼ受け入れていたインド、つまりネルー、ガンジー両氏が掲げた世俗国家の理念は崩れつつあるように見える」

もし今「真夜中の子供たち」を執筆するなら、もっと暗い物語が必要になるだろうとラシュディ氏は話し、「言いたくないが、かつてより状況は悪化したと思う」と漏らした。

ブラック・ライブズ・マター運動の「大の支持者」

ラシュディ氏はかねて、人種的公正や言論の自由を擁護してきた。ジョージ・フロイドさん殺害事件後に米国で進む人種問題の見直しは避けられないことだったとの見方を示す。

「私はブラック・ライブズ・マター運動の大の支持者だ」「引き金になったのはフロイドさん殺害だが、問題の根本はもっと古い不満にある。率直に言って、そろそろ人々は注目していいころだ」

重要なのは米国で少数派がどういう扱いを受けるかだと、ラシュディ氏は語る。

「問題は黒人が国家からどういう扱いを受けるか、黒人の命がどれだけの危険にさらされ続けるのかだ」「最近の状況に見られるように、黒人の命だけではなく、今やアジア系住民に対する攻撃も同じくらい危険になっている」

息子のミラン氏(左)、ザファル氏と写真に収まるラシュディ氏

一部の国では言論の自由に危機

ラシュディ氏は、インドを含む一部の国で言論の自由が攻撃を受けていることに懸念を示す。

「世界中で、権威主義的な政府による表現の自由への締め付けが強まっていると思う」「これはインドでも一定程度起きていることだ」

ラシュディ氏が世界レベルで表現の自由の保護に取り組む団体「PENアメリカ」に関与してきたのは、そのためだ。

同氏の望みは「自由な社会の礎となる表現の自由のために闘う」こと。「世界が自由な言論により慣れていくどころか、自由な言論は以前にも増して危機にさらされているように見える」と指摘する。

今回、「真夜中の子供たち」の発表を振り返り、ラシュディ氏は作品が他の世代に届いたことに感謝を覚えると語った。

「もし自分の本に後続世代に訴えかける力があれば、その本は著者の命を超えて受け継がれる可能性がある。それこそ著者が自分の作品に望むことだ」

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