逆さづりでのサイ空輸、保護活動に極めて重要な理由とは

逆さづりの状態で空輸されるサイ/Namibian Ministry of the Environment, Forestry and Tourism

2021.04.03 Sat posted at 12:30 JST

(CNN) アフリカのサバンナ上空で逆さづりのサイが揺れる光景は、笑ってしまうほどシュールに見える。しかし、当のクロサイにとって新天地への空輸は笑い事ではなく、生き残りを賭けた旅だ。

大半のサイの移動はトラックで行われるが、中には陸路ではたどり着けない場所もある。そこで保護活動家は10年前、ヘリコプターを使ってアクセス困難な地域に不定期に行き来する取り組みを始めた。空輸の場合、サイは横向きに担架に乗せられるか、足から宙づりにされる。

担架を使うよりも素早く簡単かつ安価に運べることから、保護活動家の間では逆さづりが好評だ。ただ、逆さの姿勢がサイにどのような影響を与えるのか、これまでは明らかになっていなかった。

その答えを探るべく、ナミビア政府は米コーネル大獣医学部の研究チームに調査を依頼。1月に発表された研究結果は驚くべきものだった。野生動物保全医学専攻の上級講師、ロビン・ラドクリフ氏は「サイは逆さづりの方がつらいだろうと予想していた」と語る。


クロサイは絶滅の危機にあるが、個体数は回復に向かっている/WWF / Micky Wiswedel

ところが調査の結果、外からは不快な経験のように見えるものの、サイの健康にとっては逆さづりで飛ぶ方が良いことが判明した。

コーネル大のチームは研究目的でクロサイ12匹をクレーンからつり下げた

正しい向きは逆さ向き

ナミビアにはアフリカのクロサイの3分の1近くが暮らす。クロサイはアフリカ大陸に生息する2種類のサイのひとつだ。

コーネル大の研究チームは2015年から、体重約800~1230キロのクロサイ12頭をクレーンで逆さづりにし、比較のために横向きの姿勢も取ってもらう実験を行ってきた。

そのうえで呼吸や換気(肺におけるガス交換)関連の生体指標を測定したところ、サイは逆さづり時の方が血中酸素濃度が高いことが判明した。

ラドクリフ氏は、逆さづりの姿勢だと脊椎(せきつい)が伸び、気道を開く助けになると指摘する。また、横向きの姿勢では、1回の呼吸のうち体への酸素供給に寄与しない空気量「死腔(しくう)」が増えることも明らかになった。

二つの姿勢の違いは微々たるものだが、サイに使われる強力な麻酔薬は低酸素血症を引き起こすことから、わずかな改善でも健康に違いが出る。

サイの空輸

横向きにするにせよ逆さづりするにせよ、サイの空輸には矢で鎮静剤を撃ち込むための小型ヘリと、輸送のための大型ヘリの2機が必要となる。横たわる場合にはそこに担架の重さが加わり、所要時間も長くなる。ラドクリフ氏によると、6人のチームでサイを担架に乗せて固定するには最大30分かかるという。

対照的に、サイの足にロープを取り付ける作業はわずか数分で済む。


サイを担架に固定するには最大1時間がかかる/Pete Morkel

これなら費用の削減(ヘリ2機の使用料は1時間当たり計4000ドル)になるほか、鎮静剤の作用時間を減らすことでサイの健康も向上する。サイに使われるオピオイド鎮静剤はモルヒネの1000倍強力で、陸路と空路のどちらで運ぶにせよリスクが非常に大きい。

写真のジャック・フラマン氏は、サイの移動方法としては空輸が望ましいと語る

保護活動家はなぜサイを移動させるのか?

クロサイはアフリカ全土の砂漠や低木地、サバンナに生息し、中でもナミビアや南アフリカ、ケニア、ジンバブエの頭数が多い。1960年代には10万頭以上が野生環境で暮らしていたが、30年間に及ぶ乱獲で98%が死滅。90年代半ばまでには2354頭が残るのみとなった。

それ以降、的を絞った慎重な保護活動のおかげで、個体数は倍以上の約5600頭に回復している。

ただ、個体数は増加傾向にあるものの、クロサイが危機を脱したわけではない。こう指摘するのは世界自然保護基金(WWF)のクロサイ保護責任者、ジャック・フラマン氏だ。

同氏によると、サイは「密度依存型」の種のため、ひとつの地域に集中しすぎた場合、一部を別の場所に移さない限り頭数が減少に向かう。また、サイの移動は遺伝子プールの多様性を確保するのにも役立つという。

サイは中国の伝統医学や宝飾品の材料として珍重されており、角めあての密輸業者から狙われる例が後を絶たない。一部のケースでは、密猟が横行する地域からサイが救出され、観察や保護の可能な場所に移される場合もある。

ナミビアでは政府の保護プログラムを通じ、サイを遠くの農場や自然保護区域に移動させる取り組みが進む。保護団体のトップによると、地元住民が密猟監視員やサイの警備員として訓練を積み、地域経済や動物の安全強化に一役買っているという。

研究者は空輸により、ナミビア北部クネネ州のようなアクセス困難な地域にサイを移動させることができる

「空飛ぶサイ」は今後増えるのか?

現在、サイの大半は陸路で運ばれている。空輸の場合は20~30分間で48キロほどの距離を移動することが多いと、ラドクリフ氏は語る。

だが、ナミビア北部クネネ州のような険しい僻地(へきち)に運ばれるサイが増えるにつれ、将来的にはサイの空輸がもっと普通になる公算が大きい。

「ナミビアには先見の明があり、このタイプの輸送方法が将来的にますます増えること、サイたちの安全への理解を深める必要があることを認識していた」(ラドクリフ氏)

ラドクリフ氏らのチームは今後、より長い時間の空輸について調査を行い、脳活動や血流への影響を調べたい考えだ。これに加え、「短期的にサイに問題が出ないことは分かっているが、逆さづりで移動した後の様子を観察して、長期的にどういう影響があるかを調べていきたい」(同氏)

自身の研究が絶滅危惧種であるサイの保護強化につながってほしいと、ラドクリフ氏。「保護活動家にできるのは、サイが回復できるように最高の安全と管理を提供することだ」「世界市民として私たちにはこうした動物を守る義務がある」と力を込めた。

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