(CNN) 米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、ナイフを持った男性が警官に射殺される事件が起きた。全米で警察の人種差別に対する抗議の声が強まる中、今回の事件をきっかけとして新たな暴動が発生、これまでに91人が逮捕され、警官30人が負傷する事態になっている。
黒人男性のウォルター・ウォレスさん(27)は26日、フィラデルフィア西部で警官に射殺された。
CNN提携局のKYWによると、発端はナイフを持った男性がいるという通報だった。フィラデルフィア警察によれば、現場に駆け付けた警官は、ナイフを振り回している黒人男性を発見した。
付近にいた車から携帯電話で撮影された動画は、最後の瞬間をとらえていた。
ウォレスさんは駐車している車の間を歩き回り、道路を渡って反対側へと移動していた。男性警官2人がウォレスさんに銃口を向ける中、1人の女性が間に入ってウォレスさんを助けようとしている様子だった。家族や司法関係者によると、この女性はウォレスさんの母親だった。
警官2人は自分たちの方に向かって歩いてくるウォレスさんを見て後退りした。続いて複数の銃声が聞こえ、警官が撃った銃弾がウォレスさんを直撃。警察によると、警官は警察車両でウォレスさんを病院に運んだが、ウォレスさんは搬送先の病院で死亡した。
この動画を見たフィラデルフィア市のジム・ケニー市長は、「答えを出すべき困難な疑問が浮上する」とコメントした。
この事件をきっかけとして抗議デモが巻き起こり、警官がなぜ致死性の低い武器を使わなかったのかという疑問が噴出。ウォレスさんを撃った警官はテーザー銃を携帯していなかった。
その夜には抗議デモが暴動や略奪に発展して商店などが略奪され、警察車両5台と消防車1台が破壊された。警察によると、警官に対する暴行や窃盗などの容疑で91人が逮捕された。
警官も物を投げられるなどして多数の負傷者が出ている。警官1人はピックアップトラックにひかれて脚を骨折するなどの重傷を負い、病院に運ばれた。
州と市は暴動が続くことを見越してペンシルベニア州兵に出動を要請。州兵は数百人を動員すると表明した。
暴動は27日夜も続くと予想され、当局は商店などに対して閉店時間を早めるよう要請している。
警官の銃撃については、フィラデルフィア地区検察が警察と連携して捜査に乗り出した。事件にかかわった警官2人は捜査が続く間、デスクワークに回されている。
ウォレスさんが射殺された現場を携帯電話のビデオで撮影した目撃者のジャヒーム・シンプソンさんによると、警察への通報前に何らかの騒ぎがあり、ウォレスさんの母親は現場に到着した警官に対し、ウォレスさんには精神衛生問題があると説明していたという。
15秒ほどすると、ウォレスさんがナイフを持って家から出てきた。周りにいた全員が、ナイフを下ろすよう呼びかけていた。
警官2人はナイフを見るなり銃を抜いたとシンプソンさんは証言し、「私は頭の中で、『テーザーはどこだ』と考えていた」と振り返る。
ウォレスさんが撃たれると、誰もが警官に向かって怒鳴り始め、現場にはさらに大勢の警官が駆けつけたという。
シンプソンさんは何よりも、ウォレスさんが母親の目の前で撃たれたことに憤りを覚えると話している。
家族によると、ウォレスさんはラップアーティスト志望だった。
ナイフ所持の黒人男性を警官が射殺、抗議暴徒化 米フィラデルフィア