(CNN) 各国が新型コロナウイルスのワクチン開発を急ぐ中、たとえワクチンが近いうちに利用可能になったとしても、接種は受けないという人が世界中で増えている。
フロリダ州の元看護士、スーザン・ベイリーさん(57)もその1人。インフルエンザをはじめとする各種の予防接種は毎年必ず受けてきた。
「私はワクチン反対派ではない。子どもは2人ともあらゆるワクチンを受けさせている。しかし現在の新型コロナウイルスのワクチンは接種しない」とベイリーさんは言い切る。
「私には基礎疾患がある。ワクチンでどんな影響が出るのか、十分に時間をかけた研究を行ってほしい」
トランプ大統領は信頼できないというベイリーさん。ワクチンについては、世界のトップ級の科学者の見解が一致して、6カ月以上の試験が行われたとしても、それは接種に向けて自らを説得する「始まり」にすぎないと話す。
ベイリーさんのような不安を持つ人は、世界中で相当数を占める。そうした人たちは、反ワクチン運動のような極端な見解は否定しながらも、新型コロナウイルスのワクチンには重大な懸念を示している。
ワクチンは感染症に対する最も有効な対策で、年間600万人の死を防いでいると科学者は説明する。ワクチンの安全性は、膨大な量の研究で実証されている。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、新型コロナウイルスのワクチンが普及すればパンデミックを終息させることができると指摘し、医学誌ランセットには、ワクチンはロックダウン(都市封鎖)を完全に終わらせることのできる唯一の手段だとする論文が掲載された。
しかしAP通信と全米世論調査センターが米国で5月に実施した世論調査では、ワクチンの接種を躊躇(ちゅうちょ)する、または拒否するという回答が半分を占め、英キングス・カレッジ・ロンドンが英国でこのほど実施した調査でも同じような結果が出た。
ただ、世論調査の結果には幅がある。CNNが5月に米国で実施した調査では、低価格で受けられるようになれば接種しようとするという回答が約3分の2に上った。新型コロナウイルスワクチン推進団体コンビンスが世界19カ国で実施した調査によると、米国と英国では約70%が接種を受けると答えている。
ワクチンの最終目的は集団免疫の獲得にある。つまり、感染が拡大しにくくするためには十分な数の人口が免疫を獲得しなければならない。今年6月のファウチ所長の予想では、ワクチンの有効率は70~75%程度。人口の3分の2しか接種を受けないとすれば、集団免疫が達成されるとは思えないとファウチ所長は述べていた。
ドイツのハンブルク大学が6月に発表した研究によると、集団免疫を達成するためには欧州と米国で人口の71~74%にワクチンを接種する必要がある。しかし「特にフランスやドイツ、オランダの現時点での意欲レベルでは、この目標に到達できない可能性がある」という。
ワクチンに対する疑念は各国に拡大しつつある。英国と中国、米国の企業が試験を行っているブラジルでは、一部の少数派がSNSで「中国ワクチン」に反対するキャンペーンを展開した。ロイター通信によると、南アフリカでは抗議デモも行われた。
アフリカではワクチンをめぐり、人口の大部分を不妊化する計画を覆い隠す狙いがあるとの偽情報が出回っているという。
新型コロナウイルスの影響で学校が休校になったり診療所へ行くことに対する不安が広がったりしたために、世界中でワクチン接種は減少している。専門家は、「ワクチンに対する躊躇が次の障壁になるかもしれない」と予想している。