ロンドン(CNN Business) ロボットがこれまで手の届かなかった人間の「触覚」に一歩近づいた。
研究チームは昨年10月、ロボットが物理的接触を感知して反応することを可能にする人工の皮膚を発表した。ロボットがますます身近な存在になる中、今後はこうした能力の必要性が高まりそうだ。
国際ロボット連盟の報告書によると、世界のメーカーは2017年、従業員1万人あたり約85台の産業用ロボットを使用。産業用ロボットの供給数は21年までに14%増えると予測される。
だが、職場でロボットと人間の距離が近くなると、一つの懸念として、どうやって人間と安全に触れ合うのかという問題が浮上する。
ロボットの力は人間に重傷を負わせかねないため、雇用主の側ではロボットが周囲を認識して、人間にぶつからないようにする配慮が必要だ。
イタリア工科大学の専門家、キアラ・バルトロッツィ氏は「触覚によって見えない障害物を検知し、タスク遂行に適切な力をかける可能性を与えることで、ロボットの安全な運用が可能になる。物や人、ロボット自身を傷つけずに済む」と指摘する。
合成皮膚の開発に向け、研究チームはまず人間を研究対象に据えた。
人間の肌には1人あたり約500万個の受容体が存在しており、体の表面での出来事を検知して、脳に信号を送っている。ただ、脳が各受容体からの情報を同時に処理するのは不可能だ。そこで、代わりに神経系が優先順位を判断する。
研究チームはこの仕組みをまねて、人間サイズの自律型ロボットの肩から足先に1万3000個以上のセンサーを装着させた。センサーは気温や加速度、対象の接近、圧力を検知できる。
現在、研究チームは大量生産できる小型センサーの開発に取り組んでいる。
ただ、一部の科学者からは、大量生産の可能性に関して懐疑的な声も上がる。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのエティエンヌ・バーデット教授はCNN Businessの取材に、センサー1個あたりのコストや脆弱(ぜいじゃく)性が大量生産の大きな妨げになると指摘した。
科学者は長年、触覚を実現する技術の開発にしのぎを削ってきた。11月には米ノースウェスタン大学のチームが、無線式でバッテリー不要の「スマートスキン」を発表。スカイプ通話のようなバーチャルな体験に触覚が加わる可能性も出てきた。
特殊な皮膚の開発に携わる独ミュンヘン工科大学のゴードン・チェン教授は既に、これまでの取り組みの妨げになってきた課題を一つ克服した。大半の研究ではコンピューターの膨大な計算能力を頼りに、人工皮膚内のあらゆる細胞からの信号を処理してきたが、チェン氏の研究では個々の細胞が活性化した場合にのみ信号を送る。
つまり、システムは大量のデータで飽和することなく、人間の神経系と同じように機能できるのだ。
こうした特徴を備えることで、ロボットは周囲の状況をより敏感に把握できるようになり、人間とやり取りしたり、事故を予測・回避したりする能力が得られる。
米ロボット工業会の幹部、ボブ・ドイル氏は「この技術により、介護のような仕事でロボットが人間に近い距離で働く機会が開けるかもしれない」と指摘した。
具体的には起床を介助したり、家の中での移動を助けたりといった用途を見込んでいるという。
ただ一方で、ドイル氏はこうした技術の現場投入はまだ先のことだとも認め、人間の安全の確保が最優先だと話している。
人間に近づく?、「触覚」備えたロボットの開発進む