電子たばこ吸引、10代にとって危険な理由

紙巻きたばこだけでなく電子たばこも、10代の健康に脅威を与えている/Shutterstock

2019.03.09 Sat posted at 19:07 JST

(CNN) 10代のニコチン中毒に関する私たちの知識の大半は、紙巻きたばこから来ている。しかし専門家の間では、電子たばこ吸引にまつわる技術や化学反応により、全く別種の脅威が生じる可能性が指摘されている。

ボストン小児病院のシャロン・レビー医師は、「子どもによる電子たばこの使用は様相が全く異なる」と説明。「ニコチンの送達方法や送達量など、あらゆる変化が重要だ」と話す。

レビー氏のプログラムに参加する電子たばこ常用者の子どもたちは、従来の紙巻きたばこの使用者や大人では滅多に見られない精神症状を呈している。一例を挙げれば、不安が募って集中できない、といった具合だ。

そんな中、多くの高校では電子たばこ吸引が広がっており、米食品医薬品局(FDA)が対策に乗り出す事態に発展した。

電子たばこを巡っては当初、大人の喫煙者にとって害が少ない代替品になるかもしれないと盛んに宣伝されていた。だが、専門家はむしろ若者への影響が大きいと指摘する。背景には電子たばこでのニコチン送達の方法や、子どもの脳の配線と発達の仕方、ガジェット特有の魅力といった要因が絡み合っている。

10代での流行は「予想できた問題」

専門家によると、高濃度の液体ニコチンが入ったカートリッジ1個には、紙巻きたばこ1箱と同量のニコチンが含まれている。

レビー氏は、子どもたちが頭痛や腹痛など「ニコチン中毒そっくり」の症状を訴えることも珍しくないと説明。電子たばこでは従来の紙巻きたばこに比べ、血中ニコチン濃度のピーク値が上昇するのではないかと疑っている。ただし専門家は、人体や脳への影響を理解するには、さらなる研究が必要だとしている。

電子たばこのニコチン含有量はメーカーによって増やされている可能性がある

米ロズウェルパーク包括的がんセンターのマチェイ・ゴニエビチ准教授は「ジュールのような新世代の電子たばこは実際に高濃度のニコチンを送達している。紙巻きたばこよりも高濃度かもしれない」と語る。

昨年の研究では、ニコチン代謝物質「コチニン」の尿内濃度について、電子たばこを使用する若者の場合、10代の喫煙者に関する従来の研究で報告されていた値よりも高いことが判明した。

ゴニエビチ氏によると、電子たばこメーカーは「ニコチンソルト」の生成によりニコチン含有量を増やしている可能性もある。これによりニコチンに特有の不快な味を覆い隠し、人体による吸収を早めているかもしれない。

ニコチンそのものの化学成分だけでなく、電子たばこ会社がリキッドに心地よく甘い風味を加えていることにも批判が向けられている。

一方、電子たばこ大手ジュールは風味について、燃焼式たばこからの切り替えを大人に促すうえで有効な手段だと主張。昨年にはジュール・ラブズの管理責任者アシュリー・グールド氏がCNNの取材に、「若者による使用は全くの驚きだった」と語っていた。

ただ、レビー氏は、10代の間で人気が出るのは「完全に予測できた問題」だと指摘する。

10代の脳はニコチンの影響を受けやすい可能性も

レビー氏によると、こうした現状を受け、ニコチン製品に関する考え方にも変化が出ている。

喫煙は多くの場合、がんなどの身体疾患を引き起こしかねない「医学上の問題」とみられていた。それが今や、電子たばこの使用は精神医学の問題とみなされることが増えている。ニコチンが子どもたちの間で中毒行動を引き起こし、脳の発達の妨げとなっているとの懸念からだ。

南カリフォルニア大学医学部の保健・感情・依存症研究所の責任者、アダム・レベンサル氏は、「若者の脳はニコチン中毒の影響を受けやすいのではないかと懸念されている」と語る。

「快楽や新しい楽しみの追求の背後にある脳の回路は、意思決定や衝動制御、合理的思考を促す回路に比べて発達が早い」

レベンサル氏によると、子どもたちが特に電子たばこの影響を受けやすい背景には、生物学的な要因だけでなく、心理学的な要因もある。仲間うちの同調圧力やストレスにより、依存行動に走る可能性が高まる場合があるという。

ゴニエビチ氏によると、子どもと大人では電子たばこに手を出す理由も異なる傾向にある。大人はたいてい高用量のニコチンを扱える元喫煙者で、不眠や集中力不足といった離脱症状を避けたいという場合が多い。

しかし子どもの場合、電子たばこで初めてニコチンに接するという場合もある。

「ニコチンは強力な化学物質であり、私たちの脳を変えてしまう」(ゴニエビチ氏)

子どものニコチン中毒への対処には、しっかりとしたカウンセリングも欠かせない

子どもに禁煙させるのは困難

レビー氏によると、プログラムに参加する若者は「ほぼ全員」が電子たばこの使用経験を持っている。ただ、「現象として新しいのは、現在はニコチンしか摂取した経験のない患者が薬物使用プログラムにいることだ」

専門家は、早い段階でニコチン中毒になると、それが紙巻きたばこやドラッグへの入り口になりかねないと懸念している。相手が10代の場合、実証済みの対策法は少ない。

一部の親は医師の指導の下、ニコチンガムなど認可外の禁煙ツールを試している。ただ、レビー氏は、子どもによっては喫煙の合間での「つなぎ」に使う可能性もあるため、落とし穴になりかねないと指摘する。

中毒が進行した場合には薬も重要だが、それだけでは十分でない。子どもには「しっかりとしたカウンセリング」も必要だ。

最終的には、喫煙者に囲まれた状況への対処法を教える必要が出てくる。しかし現実には、大半の子どもは治療後に学校に戻さざるを得ない。学校でトイレに行くと、誰もが電子たばこを使っているのが実情だ。

こうした状況にもかかわらず、子どもや親は多くの場合、危険性に気付いていないようだ。

「いまだに『安全だと思った』『紙巻きたばこに比べれば安全性は高いはず』と言う子どもがいる」とレビー氏。「『紙巻きたばこに比べれば安全』というのでは基準として余りに低い」

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