世界最大の立像も登場、インドで巨大像の建造がブームに

SAM PANTHAKY/AFP/AFP/Getty Images

2019.01.03 Thu posted at 14:41 JST

Oscar Holland, CNN

(CNN) 「巨大な像は政治的道具となりうる」という考えは決して新しいものではない。トラファルガー広場の塔の上に立つネルソン提督や金日成広場にそびえる北朝鮮の2人の元指導者など、永久に忘れ去られることのない歴史上の人物が現代の関心やイデオロギーに影響を与えることも多い。

インド西部グジャラート州に完成したインドの初代副首相サルダール・パテールの像が先ごろ一般公開された。

約182メートルという世界一の高さを誇るこの立像は、インドのナレンドラ・モディ首相の私的なプロジェクトというのが一般的な見方だ。モディ首相は、グジャラート州の首相だった2010年に立像の建設計画を最初に発表した。

建設費の大半はグジャラート州が負担したが、モディ政権も建設資金を援助しており、モディ首相が個人的に立像建設に必要な鉄の寄付を全国の農民に呼びかけるという熱の入れようだった。


完成目前の立像の様子/Credit: SAM PANTHAKY/AFP/AFP/Getty Images

モディ首相がパテール像の建設にそこまで熱心だったのは、自分をパテール氏の功績と結びつけるため、というのが批評家たちの見方だ。インド独立運動の中心人物だったパテール氏は、1947年のインド独立と同時にインドの初代の副首相に就任した。

モディ首相のパテール像建設への関与については、モディ首相が所属するインド人民党(BJP)が、自らを対立するインド国民会議(INC)の人気者であるパテール氏と関連付けることにより、パテール氏の功績の私物化を狙っているとの批判の声も上がっている。

国家的価値観の発信

一方で、パテール像はニューヨークの自由の女神像と同様、集合的価値観の発現と見ることもできる。560以上の藩王国の統合に貢献したパテール氏は、国家の政治的理想の象徴と言っても過言ではない(それゆえにパテール氏の立像は「統合の像」と呼ばれている)。

インドでは近年、立像の建設ラッシュが続いており、2、3の例外を除き、インドの巨大な像の大半はここ15年以内に建設された。聖職者の像も多いが、最近の歴史的人物の像も定期的に作られており、主な例として現在ムンバイ沖に建設中の17世紀の英雄、シヴァージーの像が挙げられる。2021年に完成予定のこの像は、高さが約212メートルで、完成すれば統合の像を抜いて世界で最も高い像となる。

ニューデリーにある高さ約33メートルのハヌマーンの像

シヴァージーが像のモデルに選ばれたのは、パテールと同様、基本的に政治的理由と考えられる。シヴァージーが統治したマラーター王国の時代は、復活したインド人民党主導のヒンドゥー・ナショナリズム運動において「黄金期」として描かれることが多い。

巨大像の建設競争

巨大な像が自信の表れだとしたら、アジアは自信にあふれているようだ。ここ数年、フィリピン、インドネシア、ミャンマーが高さ30メートル以上の像の建設を発表(または建設を開始)した。

米シンクタンク、ブルッキングス研究所インド支所の外交政策学フェロー、ドルヴァ・ジャイシャンカー氏は、像の建設は国の技術能力の投影と見ることができると指摘する。

像の建設の一部は、単純に能力、すなわちインドのエンジニアリング企業が像を建設することができ、そのための資金や資源を有するという事実と関係しているという。

しかし、ジャイシャンカー氏は、巨大な像には象徴的地位もあると指摘する。同氏は、「超高層ビルや巨大な記念碑といった大規模な建造物には立派な価値があると考えられている」とし、「日本では70年代と80年代に巨大な像の建造が増加し、中国では90年代と2000年代、そしてインドではここ10年間に巨大プロジェクトが相次いで立ち上げられたようだ」と述べた。

日本ではもう巨大な像の建造は行われていないため、間もなく完成予定の巨大像の大半は中国とインドに集中している。両国が互いをライバル視しているのは明らかで、特に像の高さの世界記録更新に躍起になっている。

パテールは独立と同時に初代副首相に就任した

マハラシュトラ州のディヴェンドラ・ファドナヴィス首相は、ムンバイ沖のシヴァージー像について、台座を含めて高さ約208メートルの中国の魯山(ろざん)大仏に対抗し、像の高さが212メートルになるよう設計を変更したことを公に認めている。

地元の価値観

しかしジャイシャンカー氏は、巨大像が国の政府の目的を果たすためだけに建造されているとの見方に異を唱える。

ジャイシャンカー氏は、像のモデルを見るとほとんどの場合、地方政治が反映されているとし、例としてインド南部テランガナ州の州都ハイデラバードにあるラーマーヌジャ像やタミルナド州にある詩人・哲学者ティルヴァルバルの像を挙げた。

「巨大像の多くは地方政治と関係しており、インドと中国の間の単なる『軍拡競争』とは見ていない」とジャイシャンカー氏は語る。今後の建設のペースは、国際的な競争というよりは、州のリソースや大規模な芸術プロジェクトに対する公的支援といった国内的な要因に左右されるようになるのではないかと述べた。

インド・デリーを拠点に活動する美術評論家ガヤトリ・シンハ氏は、巨大像が国の象徴としてふさわしいか否かという疑問が必ず生じると見ている。

シンハ氏は、インドには巨大像を建造する伝統はなく、明らかに植民地時代の名残だと指摘。世界にはインド人の血を引く偉大な彫刻家が多数おり、彼らはより抽象的でインドらしい記念像を作れるのではないかと語った。

高さ182m、世界最大の立像が登場

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