過労死に追い込まれる韓国の労働者<下> 緩やかな前進

手紙や荷物の仕分けを行う郵政事業本部(コリアポスト)の作業員/Jake Kwon/CNN

2018.12.24 Mon posted at 18:58 JST

韓国ソウル(CNN) パク・ヒョンソクさんは、夫のチェ・スーホンさんが亡くなってから月に1度、過労死で家族(主に父親や夫)を失った遺族の会合に参加している。

カン・ミンジョンさんは、育て親のおじが仕事中に亡くなった後、このグループを立ち上げた。カンさんは、おじが過労死した原因を探るため、日本の過労死について学ぶ決断をしたという。

日本では過酷な労働文化の改善に真剣に取り組むために、1980年代から過労死の研究が行われおり、日本では政府による過労死問題の調査・改善が法律で義務付けられている。

カンさんは韓国に戻ると、過労死で家族を失った遺族の会合を主催し始めたが、うまく行かず、最初の会合の参加者はわずか3人だった。多くの人が、過労死の問題や、韓国の労働法の下で自分が補償を受ける資格があることに気付いていないためだ。

この過労死についての無知が、チェさんのように最も過労死の危険にさらされている人々にまで広がっている。

「夫はあのような働き方が普通だと思っていたに違いない。彼のようなベビーブーム世代は、バリバリと働き、家庭人としての役割を果たすことを重視する。夫は文句を言わず、休憩も取らなかった」とパクさんは言う。

韓国の1週間あたりの平均労働時間は、経済協力開発機構(OECD)の加盟36カ国中、メキシコと現在加盟申請中のコスタリカに次ぐ3位だ。

しかし、長時間労働は文字通り労働者を死に追いやるだけでなく、具体的な利益につながっている証拠もほとんどない。現に、韓国は生産性の低さでOECD加盟国中ワースト3に入っている。

緩やかな前進

韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は2017年、労働時間の削減と労働条件の改善を公約して大統領に就任し、18年7月から労働時間の上限を週52時間に制限する法律が一部機関や企業を対象に施行された。当初の対象は従業員数300人以上の大企業に限られている。

この法律に最初に準拠した会社の1つが、KT(旧コリアテレコム)だ。同社ではモニター上に従業員の退社時刻が表示され、マネジャーは従業員らに残業せずに帰宅するよう促している。

韓国では今年、労働時間の上限を52時間とする法律が施行された

韓国雇用労働部は8月、この改革により約4万3000人の雇用が創出されたと発表した。企業が既存の従業員に残業を強いることができず、新たに従業員を雇わざるを得なくなったためだ。

しかし、すべての雇用者が改革にすんなり応じたわけではない。

郵便局では新法の施行後も労働条件はほとんど変わらず、郵便配達員が過労を苦に自殺する事件が相次ぎ、労働組合のメンバーがハンガーストライキを行う事態となった。

その結果、2017年8月、青瓦台(大統領府)の仲介で、郵政事業本部(コリアポスト)、郵便局労組、独立の専門家らによる、郵政事業の労働条件を調査・検討するための合同委員会が設置された。

委員会の調査の結果、2000人近くの郵便局員が平均で年間3000時間以上、週58時間以上勤務しており、職場のストレスのレベルは、看護婦、消防士、戦闘機のパイロットよりも高いことが分かった。この調査結果を受け、郵政事業本部は来年に1000人、2020年にもう1000人の職員を雇用することに合意した。労組のメンバーはこの結果を歓迎し、ハンガーストライキの終結を宣言した。

パクさんは毎月補償を受け取っており、支援も受けている。それでも、夫の死が悲しい記憶であることに違いはない。兆候に気付けていればという罪悪感にいつもさいなまれるという。「生きていこうとしているが、罪悪感は常に心の奥底にある」

連載終わり

過労死する人も、韓国の労働現場は

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