「脱北」の北朝鮮女性12人、自分がだました 元店長が告白

2016年、勤務していた中国の飲食店から「脱北」した北朝鮮の女性従業員たち

2018.05.22 Tue posted at 18:33 JST

ソウル(CNN) 北朝鮮が中国で経営する飲食店に勤務していた女性ウエートレス12人が2016年4月、店長とともに集団で韓国へ亡命したとされる問題で、店長だった許剛一(ホ・ガンイル)氏がこのほどCNNの取材に応じ、女性ウエートレス12人は自分がだまして韓国へ連れて行ったと証言した。韓国の情報機関、国家情報院(NIS)に強要されてやったと主張している。

許氏はインタビューの中で、金正恩政権に失望してNISの情報員になったと告白。自分の友人のうち5人は裁判を受けることなく処刑されたと語り、自分もいつか同じ運命をたどるのではないかと不安を口にした。

韓国へ亡命したとされるのは、中国南東部・浙江省の寧波市にある飲食店でウエートレスをしていた若い女性12人。韓国政府は、この女性たちが自らの意思で脱北したという説明を変えていない。韓国統一省は当時、2011年に金正恩氏が最高指導者に就任して以来、最大の集団脱北として大々的に宣伝していた。

CNNは、許氏の主張についてNISにコメントを求めたが返答はなかった。韓国統一省は、女性たちがソウルへ来た状況について詳しく調べると話している。

北朝鮮赤十字は当時、この問題を「集団拉致」と形容していた。北朝鮮は19日、韓国に対し、12人を北朝鮮に帰国させるよう改めて要求。12人が帰国すれば、関係改善を望む韓国の意思を示すことになると強調した。

北朝鮮の朝鮮中央通信は、「韓国当局は、朴(槿恵大統領=当時)政権による前代未聞の残虐行為を認め、事件に関与した者を厳罰に処し、我が国民の女性たちを速やかに家族のもとへ返し、それによって北と南の関係を向上させる意思を示さなければならない」と伝えている。

中国・寧波市にある飲食店の外観

許氏によると、NISの要員と初めて会ったのは2015年11月。契約書に署名するよう持ちかけられ、韓国旗の前で忠誠を誓うよう促されたという。韓国旗と一緒に写真も撮影した。それは北朝鮮に対する裏切りとみなされる行為に他ならなかった。

しかし、NISとの関係を知った韓国系中国人の客から脅迫され、北朝鮮当局に告げると脅されたことから、韓国への亡命を決意したという。

「NISは全員を一緒に連れてくるよう私に指示した。私は不可能だと告げた。もし北朝鮮にこのことを知られたらあまりに危険だと。それでもNISは、とにかく連れて来いと指示した」。許氏はそう振り返る。

この時点で韓国に脅されていると感じたといい、「相手の態度が突然変わり、もし従業員を一緒に連れて来なければ、私を北朝鮮大使館に引き渡して殺害させると言われた」。これは朴槿恵(パククネ)大統領の命令だとも告げられたという。

北朝鮮料理を出していたこの飲食店では当時、ウエートレスや料理人など約20人の北朝鮮人従業員が働いていた。

北朝鮮は世界各国でこうした飲食店を経営しており、従業員は信頼のおけるエリート市民を配置していると思われる。従業員はある種大使のような役割を担い、北朝鮮政権のために外貨を稼ぐ。

許氏によると、飲食店の売り上げの大部分は北朝鮮政府へ送っていたほか、商品の取引を通じても収入を得ていたという。

飲食店の入り口。売り上げの大部分は北朝鮮政府に送られていた

NISはこの店の従業員にうそをついて韓国へ連れてくるよう指示したと許氏は主張する。そこで同氏はウエートレスたちに対して「荷物をまとめるように言い、移転する必要があるとうそをついて、数台のタクシーに乗せ、上海空港へ向かうよう運転手に指示した」。

「NISは私に対し、従業員には何も言うなと告げた。もし計画のことを知れば逃げられる可能性があり、そうなれば私は通報されて殺されるかもしれないと」

それでも従業員のうち2人には、韓国へ行く可能性があることを事前ににおわせていた。この2人を含む5人は、自らの判断で店を去ったという。

許氏とウエートレス12人は、NISが手配した航空券でマレーシアの首都クアラルンプールへ到着。韓国統一省はこの時点で、「13人の脱北者は自発的に脱北を決め、外部の助けを借りずに脱出を遂行した」と発表していた。

許氏に最初に取材した韓国のCNN系列局JTBCは、ウエートレスのうち3人の所在を突き止めてインタビューした。3人とも許氏にだまされたと訴え、1人は北朝鮮に帰りたいと話している。同局は3人の身元を明かしておらず、CNNではこの証言の信憑性を確認できていない。

「私たちは数人ずつ、車に乗せられた。韓国国旗と大使館が見え、マレーシアの韓国大使館へ向かっている時に、ものすごく恐ろしいことになったと思った」。女性の1人はJTBCにそう語っている。

女性たちは許氏に脅されたと訴えた。もし戻れば家族が殺害されると言われたので、従うことに同意したと話している。

メディアの取材に答える元従業員ら

許氏はCNNのインタビューの中でこの時のウエートレスたちの様子について、「韓国旗を見るとパニックに陥った。私は彼女たちに、もう遠くへ来すぎてしまったので、戻ることはできないと告げた」と振り返った。

韓国の偽名パスポートを与えられた一行は、韓国の仁川国際空港に到着した。

韓国はこの数日後に議会選挙を控えていた。ウエートレスたちは、選挙が朴大統領率いる保守系政党にとって有利になるよう、ソウルへ連れて行かれたと許氏は主張する。

許氏がなぜ今になって沈黙を破る気になったのかは分からない。極刑に値する裏切者と見なされる危険があると分かっていても、北朝鮮へ戻りたいと同氏は言う。

韓国政府と情報機関に裏切られ、操られたと感じているという許氏。「私たちが唯一望むのは、この問題に対する徹底調査だ。私たちははめられた犠牲者だ。私はこのために全てを失った」「自分の両親が本当に恋しい。北朝鮮の人たちを傷つけたことは本当に申し訳なく思う」と話している。

従業員の集団「脱北」、元店長が語る

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