香港(CNN) 中国でヒップホップが逆風に見舞われている。昨年は全盛期を迎えた感もあったが、その後、バブルがはじけてしまった。
中国のメディア当局が新たな規制を導入したことで、いくつもの歌がブラックリスト入りしたほか、GaiやVaVaといった人気上昇中の中国人ラッパーが番組を降板。さらにPG Oneは、歌詞が薬物やセックスを美化しているとして批判を受け、謝罪にまで追い込まれた。
こうした規制強化はヒップホップというジャンルに冷や水を浴びせる結果になっている。
中国有数のライブ運営会社スプリット・ワークスの共同創業者、アーチー・ハミルトン氏は「道徳的引き締めの時期が訪れているのは確実で、ヒップホップはその一例だ」と話す。
広告主と規制当局の双方を満足させるため、音楽フェスティバルの出演者を見直しているという。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2013年の就任以来、伝統の儒教的価値観や道徳に関する新たな指針を打ち出してきた。
今年1月には、メディア当局がヒップホップを規制対象に選定。「タトゥーを入れた芸能人やヒップホップ文化、サブカルチャー、非道徳的な文化」をテレビで扱わないよう求める指示を出した。
中国はパンクやロックの時代から、欧米の影響を受けた若者文化を抑圧しようと試みてきた。業界関係者の多くはそう指摘する。
香港のグループ「LMF」のラッパーを務めるMC仁氏は、物議を醸す歌詞が原因で20年前に中国公演を禁止された。今再び同じ事態が起きているのも驚きではないという。
ヒップホップは労働者階級の若者と富裕層の子弟、双方の間で人気だ。
2009年に中国初のヒップホップラジオ番組を立ち上げた孔令奇氏は、「中国のヒップホップの背景にあるのは夢だ」と説明。ヒップホップが大きな存在となった事情は米国と同じだとし、お金のない若者にとっての表現の場になっていると話す。
ヒップホップジャーナリストの男性(31)もこうしたファンのひとりだ。欧米からプラスチックごみとして輸入された違法CDを通じヒップホップと出会った。
男性は中国人アーティストが「比較的リアルで誠実」な姿勢を保っている点を評価していた。その多くは、標準中国語とは異なり地元の文化が生きている方言で歌い、ラップのビートに中国の楽器を取り入れるなど実験的な音作りにも取り組んでいた。
しかし、ヒップホップの人気拡大に伴い商業化の波が到来。そしてついに当局の視線が注がれるようになった。
最新の若者文化をお金に結びつけようと狙い、セレブや企業、広告がシーンを埋め尽くした。リアリティー番組の「ラップ・オブ・チャイナ」は昨年6月から9月にかけて27億回視聴されている。
「ゴールドラッシュは本物だった」。こう語るのは米デトロイト出身で中国各地にヒップホップバトルの場を設けてきたデーナ・バートン氏だ。
中国の一流ラッパーはかつて、一夜で300ドル相当を稼ぐのに苦労していた。それがラップ・オブ・チャイナの登場後は3万ドル、ときには30万ドルの出演料を手にするようになったという。
そしてお金とともにラップの負の側面である、女性や薬物についての低俗な歌詞を美化する動きも現れた。観測筋からは一線を越えたとの見方も出ている。
前出のジャーナリストの男性は「中国で薬物について語ることは、米国で白人至上主義に言及するようなものだ。触れてはいけない話題だ」と指摘した。
ラジオ司会者の孔令奇氏は、政治のような主題を注意深く避けてきたという。最近の番組では、中国南部出身のグループ、C-BlockのDamnshine氏とのインタビューを扱った。
同氏は米国のヒップホップについて、「良いバイブを広めること」ではなく、怒りをぶちまけることに焦点が当たっていると指摘。中国のラッパーはジャンルを模倣する中で行き過ぎたとの見方を示す。
また、ラッパーは「ディスる」こと自体を目的にするのではなく、聴衆に理性や分別に訴えるべきだとも主張。中国は米国ではないのだから文化やルールも異なっており、ヒップホップもそれに応じた対応を取る必要があると提言する。
こうした方向性から、愛国的なラッパーも増えている。中国の検閲当局ですら支持に回るような歌詞を用いているのだ。
バートン氏のような根強い支持者にとって、今年の規制強化は不満の残る内容だ。ただ、音楽シーンが変わり、ブランドや企業が撤退しても、中国のヒップホップが終わりを迎えるわけではない。
「ヒップホップはこの世代を代表する声になる。ムーブメントは中国に深く根ざしており、しぶとく命脈を保ってきた歴史がある」