存在感増すイスラム保守主義、戌年迎え摩擦も マレーシア

2018.02.16 Fri posted at 17:15 JST

クアラルンプール(CNN) 16日の春節(中国文化圏の旧正月)から始まる新年の干支(えと)は戌(いぬ)だが、マレーシアでは犬を「不浄」と考えるイスラム教徒への配慮から、戌年の飾りを控える店などが目立っている。

マレーシアは人口3000万人のうち約6割がマレー系のイスラム教徒、約4分の1が中国系で、ほかにインド系の住民もいる。国教はイスラム教で、イスラム法に基づく裁判所もあるが、憲法上は政教分離の世俗主義国家だ。

同国で最近、イスラム教保守派が勢いを増していることに、中国系の住民は懸念を募らせてきた。

首都クアラルンプール郊外のショッピングセンター、サンウェイ・ピラミッドでも、新年の装飾に犬のデザインを使わないことが決まった。しかし広報担当者によると、この方針に対してソーシャルメディア上で非難が集中。ボイコットを呼び掛ける声も上がっているという。

ここに店を出す中国系マレーシア人の女性は「中国系を軽視する態度だ。それならイスラム教徒だけの国を作るべきだが、ここには仏教徒やヒンドゥー教徒もいるのが現実」と話す。

クアラルンプールの中華街で新年の飾りを売る店も、犬のデザインが入った商品を外に並べず、店内に置いている。

ロイター通信は先月、同市中心部のショッピングセンター、パビリオン・モールが宗教上、文化上の配慮から戌年の装飾を避けることにしたと伝えた。

今年初めには大型スーパーチェーンが、春節向けに売り出すTシャツの十二支から犬とイノシシの絵を外したことが判明して物議を醸した。イスラム教ではイノシシを家畜化したブタも不浄な生き物としてタブー視されている。

中華系が経営する店舗では春節が近づくと摩擦を避けるため犬関連のグッズを店内に入れるところもあるという

マレーシアの民主活動家、マリア・チン・アブドゥラさんは新年の飾りをめぐる動きについて、イスラム教保守派の拡大を示す兆候のひとつだと指摘し、「これまでの世俗主義が消えつつあるようだ」と懸念を示す。

チンさんはさらに、髪を覆うスカーフを着けたマレー人女性の姿が最近増えていることなどを指摘する。

クアラルンプールで予定されていたビール祭りが中止されたり、外国人歌手のコンサートで衣装が制限されたり、キリスト教徒が建物に十字架を立てることを反対されたりした例もある。

「私の息子も学校から帰ってきて、犬に触ってはいけないと言ったり、どうしてお母さんは頭にスカーフを着けないのと聞いてきたりします」と、チンさんは表情を曇らせる。

クアラルンプールの中華街で売られている犬の人形=1月

マレーシアからは毎年数千人の学生がサウジアラビアへ留学する。厳格で排他的なイスラム思想に感化され、持ち帰って来るケースも少なくない。

マレーシアのナジブ首相は昨年、強硬なイスラム思想で知られるインド出身の宣教師、ザキル・ナイク氏に永住権を与えて注目された。

ナジブ氏は2013年の総選挙で多民族の融和を掲げたものの、得票率で野党を下回る結果となった。それ以来、マレー系イスラム教徒の地盤固めに努め、イスラム寄りの政策を進めている。

同国では独立以来、長年にわたってマレー人を優遇する政策が取られてきた。これがマレー人の依存体質を生み、かえって宗教間、民族間の対立をあおっているとの批判もあるが、ナジブ氏は今年前半に予定される次期総選挙でもイスラム色を前面に打ち出していくとみられる。

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