「ここは地獄」 対ISIS戦の最前線、モスル市民たちは今 CNN EXCLUSIVE

激戦地から逃れてきた人々。CNNの取材班が対ISIS掃討作戦の最前線へ入った

2017.06.07 Wed posted at 12:05 JST

モスル(CNN) イラク軍が過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」からの奪還をめざす北部モスルでは、燃え盛る戦火の中、取り残された市民が死の恐怖に直面している。その最前線をCNNが取材した。

モスル西部の前線からわずか数キロの場所に設けられた野外診療所の奥で、10歳のマリアム・サリンさんと姉のイナアムさんが手当てを受けていた。自宅から一家で逃げ出そうとしたちょうどその時、迫撃砲が撃ち込まれて家が崩壊した。ほかの家族は全員、がれきの下敷きになった。

「みんないなくなってしまった。母さんも父さんもきょうだいも」と、マリアムさんは取材班に話す。だがそれを実感として受け止めることは、まだできていないようだ。

マリアムさんはイナアムさんに寄り添い、顔の消毒液をふき取ってあげたかと思うと、急に体を震わせて涙ぐむ。

自宅周辺は今もISISの支配下にある。イラク軍はすぐ近くまで迫っているのだが、がれきの下から家族を救出することができない。両親や弟が生きているようにと、ただ望みをつなぐばかりだ。

取材班はさらに前線へ近付いた。煙が立ち上り、遠くで爆発音が響く。

イラク軍の司令官は動揺した表情で、がれきの下から収容した遺体の話をした。乳児を抱いたまま息絶えた母親の遺体だったという。

生き残った市民が次々とイラク軍部隊の下へ逃れてくる。

市民たちの言葉には深い悲しみや怒り、安どの感情が込められていた。「この3年間、いったいどこにいたの」と、兵士たちを責める女性。「20日前に脱出しようとしたんだ。あいつはISISに捕まって、頭を4回も撃たれてしまった。私の弟だ」と声を詰まらせる男性もいた。

11人家族の母親は「小麦粉と水でしのいでいた」と訴える。それも子どもたちの飢えを何とかいやすほどの量しかなく、夫と自分は4日間何も食べずに通したという。

戦闘によって破壊されたモスルの街

前線の診療所では、元米陸軍特殊部隊隊員のデーブ・ユーバンクさんがボランティア・チームとともに救援活動にあたっていた。

ユーバンクさんが数日前、イラク軍からの要請で駆け付けた現場には、脱出しようとしてISISに射殺された数十人の遺体が散乱していた。

1人の男性が泣きながらやって来て、こう訴えた。「娘が目の前で撃たれた。頭が吹き飛ばされたんだ」

ユーバンクさんが取材班に示した写真では、十数人の遺体が折り重なるように横たわっていた。だがその中に生存者の男性が1人いて、腕を動かすのが見えたという。

さらにもう1人、幼い少女が見つかった。イスラム教徒の女性が髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」の下から外をのぞいている。ヒジャブを着けた母親は、少女のかたわらで亡くなっていた。

救出した少女を抱きかかえる元米陸軍特殊部隊隊員のデーブ・ユーバンクさん

チームはISISからの攻撃をかわすために戦車の陰に隠れ、米軍機に煙幕を要請して、少女に近付いた。少女は救出された時、母親から離れるのがいやだと泣き叫んだ。それからずっとひと言も発することはなく、今も名前が分からないままだという。

その翌朝には自力で脱出を果たした男性がやって来て、生存者がいると教えてくれた。ユーバンクさんらはISISに三方を囲まれながらも生存者の少女にロープを投げて引き寄せ、無事に救出することができたという。

市民は過去3年間もISIS支配下での生活を強いられた末、今は絶え間ない爆撃と恐怖と飢えに苦しんでいる。

何もかも失った生存者たちに、かける言葉は見つからなかった。

車いすに乗った高齢の女性が言った。「ここは地獄」。

想像することも出来ない地獄なのだろう。

激戦地モスルは今

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