(CNN) 怒りやストレスのあまり何かを壊したくなった経験は誰にでもあるが、そのような衝動的な行動はストレスや緊張の緩和に役立つのだろうか。
自宅で物を壊し、その結果修理や交換を余儀なくされたり、打開策を見つけようと悪戦苦闘したりしなくても、お金を払えば、後のことを気にせず、好きなだけ物を破壊させてくれるサービスがある。
「アンガールーム(怒りの部屋)」と呼ばれるこのサービスは、ストレスを発散できる「安全な場所」を求める人々の間で大流行している。
ジョージア州アトランタ近くの「ブレーク・ルーム」もこのサービスを提供する会社の1つだ。同社の広報担当メラニー・マクリーン氏によると、2月5日に行われた米プロフットボールの年間王者を決める「スーパーボウル」の後、アトランタ・ファルコンズの敗戦に激怒したファルコンズファンが同社に殺到したという。
利用者は20~90ドルの料金を支払い、野球用のバット、バール、スレッジハンマーなど、物を壊すのに使う道具を選択する。壊す物は店で選んでもいいし、持ち込みも可能だ。そして好きな音楽を大音量で流し、破壊を開始する。
しかし、メイヨー・クリニックの医学部教授アミット・スード医師は、この20分間の「憂さ晴らし」のストレス解消効果に懐疑的だ。スード医師は「まあ、誰かの鼻を破壊するよりはテレビを破壊した方がいいのは間違いない」と語る。
最近離婚したばかりの女性も(ブレーク・ルームにはこの手の客が多い)、アンガールームを一度体験すれば短期的な安らぎは得られるだろう。
しかし、ストレス発散の目的でごくたまに利用したり、最初のデートで打ち解けるために使ったりするならいいかもしれないが、頻繁に訪れるようなら、より大きな問題の兆候かもしれない。スード医師も「料金を払ってまで物を壊す必要がある人は、自分の人生のどこが間違っているのか自問した方がいい」と指摘する。
スード医師は、ストレスや怒りを解消するための代替手段として、ゆっくりと深呼吸する、期待し過ぎない、物事を合理的に考えられるよう意識的に訓練するなどを推奨する。
怒りは人体の化学構造を変化させ、認識可能な身体的反応を引き起こす。ニューヨーク・プレスビテリアン病院ウェイル・コーネル・メディカル・カレッジの精神科教授、ゲイル・サルツ医師は、そのような神経が高ぶった状態を抑える方法として、深呼吸、筋肉の緊張緩和、視覚心像の利用、一歩距離を置いてじっくり考える時間を取るなど、自分を落ち着かせるための実用的な方法を模索するよう勧める。
サルツ医師は、アンガールームで心を穏やかにする満足感を得られるのは、恐らく、サンドバッグを手当たり次第に叩いたからではないと言う。
「(叩いているうちに)空想に近くなり、サンドバッグではなく夫の顔を叩いているような感覚になる」(サルツ医師)
夫の顔に架空の一撃を食らわす瞬間は気分がいいかもしれないが、次回、同様の怒りを感じた時、その衝動的な感情を抑えるのが容易ではなくなるかもしれない。
その点、サルツ医師が推奨する代替手段は、ストレス解消に効果があり、なかなか感情を抑えられない人にも有効であることが証明されているという。
しかし、半年ほど前に開業したばかりのブレーク・ルームは、時代の流れに乗り、順調に業績を伸ばしている。
アンガールームで思う存分破壊行動を楽しみ、満足した利用者は、すっきりした気分で店を後にする。また自宅でワイングラスを割ったり、皿を放り投げるのとは違い、アンガールームでは後片付けは一切不要だ。
客が物を壊した後の残骸は、従業員たちが回収し、再利用する。壊すための皿やグラスは、レストランや外部の寄贈者などから調達しており、利用者にとっては選択肢が豊富な上に、環境に配慮している気分にもなれる。
無論、安全が最優先であり、利用者は規則の順守が求められる。アンガールーム内では靴カバー、ゴーグル、ヘルメットなどの防具の着用が義務付けられ、酔っ払いや妊婦は利用できない。しかしアンガールーム内での破壊行動については、「一切制限はない。部屋は極めて頑丈に作られている」(マクリーン氏)
ただ、このアンガールームにどれほどのストレス解消効果があるのかについてははっきりしない。サルツ医師は「その点についてはデータが全くない」とし、「この種のサービスは次々と出てくるので、人によってどの程度効果があり、あるいは効果がないかは時間がたてば明らかになるだろう」と付け加えた。
物を壊してストレス解消、アンガールームが人気