シアトル(CNNMoney) 航空機内で起きたトラブルの現場を撮影した動画が、このところ相次いでソーシャルメディアなどに投稿されている。トラブルは実際に増えているのかどうか、原因はどこにあるのだろうか。
客室から乗客が引きずり出されたり、乗客同士のけんかが始まったり、子連れの母親が泣き出したり――。先月は、米ユナイテッド航空機で運ばれた大型ウサギが貨物室で死んでいるのが見つかった。
次々に起きる話が、ソーシャルメディアや主要メディア経由で広まっていく。トラブルが最近特に増えているということだろうか。
現在手に入る限られたデータによれば、機内の状況はむしろ改善傾向にあるようだ。米連邦航空局(FAA)によると、乗客の迷惑行為は2004年をピークに減少の一途をたどってきた。乗務員の職務を妨害した乗客の人数は同年の310人に対し、昨年は92人にとどまった。
運輸省に寄せられた乗客からの苦情も、15年から16年で11%余り減少している。
こうしたデータはもちろん、極めて不完全だ。乗客が何らかの理由で退去を要請されても、捜査当局がかかわる事件でなければ全く報告されないこともあり得る。
最近特にトラブルが目立つのは、乗客が普段の生活でストレスをため込んでいるせいとも考えられる。
労働時間が長すぎたり、あるいは十分に働けなかったり、お金や政治、医療、家族の心配があったりといった外界のストレスが、預け入れできない荷物と同じく機内へ持ち込まれる。
乗客は米同時多発テロから16年たった今も、搭乗前に長い列を作って運輸保安庁(TSA)の検査を受ける。靴とベルトを外し、ノートパソコンをバッグから取り出す。水のボトルは持ち込めない。
機内で1人が確保できるスペースは、年々狭くなる一方だ。だれもが縄張り意識を持たざるを得ない。
航空運賃は過去に例のないほど下がっているが、その代わり荷物の持ち込みや食事、優先搭乗サービスなどに追加料金のかかるケースが増えてきた。快適さとスピードを金で買うようなものだ。
米ジョージワシントン大学のスティーブン・リビングストン教授は「近年目立ってきた経済力や地位の格差が、これほど明らかになる場所はほかにあまりない」と指摘する。同教授によれば、最初から怒りや不満の感情を抱いた状態で搭乗してくる人もいるという。
これに加えて、今ではだれもがカメラを手にしているという要因がある。ある出来事を一台のスマートフォンがとらえると、それがインターネット上で100万回も再生され、爆発的に広がっていく。米国民の8割近くがスマートフォンを持っているとの統計もある。
一方では、航空会社のスタッフ側も不安を募らせている。トラブルの現場をとらえた動画で経緯が全て分かるわけではなく、誤解を招くこともある。
リビングストン教授は「客室乗務員もピリピリしていることは間違いない」と話す。カメラを構えた乗客に、仕事ぶりを常に監視されているからだ。