北朝鮮在住者が北を非難、異例の短編集「告発」 国外出版の経緯は小説よりも奇なり

北朝鮮在住者によって書かれた初の体制批判の小説集、「告発」

2017.04.03 Mon posted at 18:45 JST

ソウル(CNN) 北朝鮮在住の反体制派作家による短編小説集が、世界各国の言語で次々に出版されている。韓国の人権活動家が原稿の存在を偶然知り、協力者を北朝鮮へ送り込んで入手した。

北朝鮮の作者は「パンジ」と名乗る人物。朝鮮語で「ホタル」を意味するペンネームだ。750ページに及ぶ原稿が、「告発」と題した短編集にまとめられている。

架空の物語とされるそれぞれの小説は、北朝鮮の市民生活を映し出している。原稿を入手した韓国の活動家、都希侖(ドヒユン)氏はCNNとのインタビューでこう語った。

「政治犯の収容所も公開処刑も、人権問題も出てこない。北朝鮮に住む人々の日常が描かれていて、それが恐怖をかき立てる。市民が奴隷のような生活を送っていることが分かる」

短編集は2014年5月に韓国語版、15年にフランス語版が出版され、、先月には米英両国の書店にも並んだ。すでに世界19の言語に翻訳されている。

都氏はかつて、北朝鮮から中国国境を越えたところで拘束された脱北者の女性を支援した時に、この女性から原稿のことを聞いた。

女性は作者の親戚で、脱北の計画を打ち明けた際に「原稿を持ち出してくれないか」と依頼された。しかし見つかることを恐れ、断っていたという。

「告発」はこれまで19の国の言語で翻訳・出版されている

もしも女性が依頼に応じ、原稿を持ったまま拘束されていたら、北朝鮮へ送還されて収容所へ送られたり、処刑されたりしたかもしれない。「北朝鮮から文書を持ち出すのは非常に難しい。我々も過去に何度か失敗している」と、都氏は話す。

そこで都氏は、改めて協力者を北朝鮮の作者のもとへ送ることにした。苦肉の策として、中国人観光客が持ち帰る荷物に原稿を紛れ込ませ、政治宣伝本の間にはさんでおいた。荷物は国境でX線検査にかけられたが、中身は調べられずに無事通過した。

原稿は13年に韓国に届き、都氏が早速出版社を探した。

作者は体制指導下の朝鮮作家同盟に所属していたが、今は引退して平穏に暮らしているという。ただ都氏はそれ以外の情報を明かそうとしない。

北朝鮮内部から体制批判の声を上げている文筆家は、この人物のほかに知られていない。本人の身の安全が第一だと、都氏は強調する。

都氏によれば、短編集と同時に金正日(キムジョンイル)体制の時代を扱った詩集が持ち出されていた。これも今後出版される見通しだという。

同氏は、作者が今も執筆活動を続けていることは間違いないと話し、いつの日か現在の金正恩(キムジョンウン)体制を描いた作品も世に出すことを試みるはずだと、期待を寄せている。

北朝鮮在住者の「告発」本、世界で出版

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