イラク・アルビル(CNN) 「ママに会いたい」。4歳の少女ハウラちゃんは、祖母アリヤさんの腕の中で、か細い声でつぶやいた。
顔にはいくつもの傷跡が残り、包帯に覆われた喉と脚のやけどの傷はまだ癒えない。片目には破片が突き刺さり、もう片方の目は閉じたまま。再び目が見えるようになるかどうかは、医師にも分からない。
祖母アリヤさんは言葉を詰まらせ、涙を流した。「死んだ方がましかもしれない。こんな風に生きるよりは、死ぬことを考えている。(ハウラちゃんは)まるで小さな花のようだった。遊んだり走ったりしていた。それが今は、母を亡くし、両目もなくした」
ハウラちゃんの母親は、17日の空爆で死亡した。イラク北部モスルの近郊ではこの日、米軍率いる有志連合が複数回の空爆を行っていた。この空爆で民間人が死亡したと伝えられ、米政府とイラク政府が調査に乗り出している。しかし米国防当局者は、現時点で空爆に関する米軍の規定が破られた形跡はないとしている。
イラク軍高官によると、17日に空爆された現場からは、30日までに141人の遺体が回収された。しかしまだ瓦礫(がれき)の下に遺体が残されていて、犠牲者はさらに増える可能性がある。
「あれは大量殺人だった」。アリヤさんは涙を流した。
ハウラちゃんの父のアラー・アルタイさんによると、一家が住んでいた住宅地では、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の戦闘員が密かに移動できるよう、家と家の間の壁に高さ40センチ、幅1メートルほどの穴が空けられていた。
住民はこの穴を伝って避難し、通りのはずれにある家に女性や子どもを含む約30人が身を寄せていたという。
しかし17日は戦闘が始まる前、ハウラちゃんは母親や親類とともに、パンを焼いたり洗濯したりするため自宅に戻っていた。
この日、近くの交差点にはISISの戦闘員が10数人ほど集まっていて、間もなく戦闘が激化し、空爆が始まった。
「母は悲鳴を上げた。私たちがいた家では石や破片が落ちてきた。彼女は様子を見に行くと言った」(アラーさん)
この地区の住宅は、アラーさん一家がいた家を含めて3棟が倒壊。アラーさんは、娘の鳴き声だけが聞こえたと振り返る。
「ブロックが娘の上に落ちていた。金属製の枠もあり、その破片が娘の顔と目に突き刺さっていた。妻やおじ、おばの名を呼んだが、返事はなかった」
がれきの下から助け出したハウラちゃんは、全身真っ黒になり、ひどいやけどを負っている様子だった。
一家はISIS戦闘員に、ここから脱出させてほしいと頼んだが、1人のメンバーから返ってきたのは、ハウラちゃんを殺してやろうという返事だった。
「男は言った。『おれが娘を撃ってもいい』と。『なぜ助けたいと思うんだ。どうせいずれは死ぬのに』と」。アラーさんはそう振り返る。
アラーさんは自分でハウラちゃんを手当てしようとしたが、水を飲ませようとするとうめき声を上げた。
妻を発見したのは翌日だった。「妻の足と内臓が見えたので、毛布をかけ、立ち去った」
イラク治安部隊がこの地区を解放し、ハウラちゃんが治療を受けられたのは、3日後だった。妻とおじ、おばの遺体はほかの人たちの助けを借りて埋葬した。
惨状はこの地区だけではなかった。100人以上が避難していたと思われる、近くにあった複数階建ての建物も倒壊した。
民間人の犠牲者が出たのは到底、今回だけにとどまらない。モスルでは毎日のように、住民がISISによって人間の盾にされ、戦闘に巻き込まれる。空爆、爆弾、銃弾、爆発によって市民が死亡しても、ニュースにはならない。
アラーさんは、ハウラちゃんの前で母親の話をする時にはささやき声になった。しかしハウラちゃんは、自分の目について記者が話す声を聞き、「見て、開けられるから」と小さな指でまぶたをかすかに持ち上げて見せた。
それからもう一度、母のことを尋ねた。
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