全身麻痺から右手の機能回復、「神経義肢」で脳と筋肉つなぐ

右手を動かす機能が回復したという

2017.03.29 Wed posted at 14:46 JST

(CNN) 事故による脊髄(せきずい)損傷で両手両足がほぼ完全な麻痺状態だった男性が、実験的装具の助けを借りて、右手を動かす機能を回復した。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームが28日の英医学誌ランセットに発表した論文で明らかにした。研究はまだ初期段階だが、いずれ脊髄を損傷した多くの患者の人生を一変させる可能性があると期待を寄せている。

実験に使った装具は「神経義肢」と呼ばれ、患者の脳の信号を腕のセンサーに伝達することによって、脳と筋肉の間の失われた命令伝達機能を回復させる。

論文を執筆したケース・ウェスタン・リザーブ大学のアビデミ・アジボエ准教授によると、今回は過去の実験と違って、四肢がほぼ完全な麻痺状態だった重度の患者が、神経義肢のおかげで手を使って物をつかむ機能を取り戻した。

実験は研究室で患者1人のみを対象に行い、まだ一般の患者に応用できる段階には達していない。しかし技術的障壁は5~10年以内に克服できる見通しだという。

実験に協力した米クリーブランド在住のビル・コシェバーさん(53)は2006年、自転車でトラックに衝突する事故を起こして脊髄を損傷。言葉を話したり頭を動かすことはできても、両肩から下は麻痺して歩くことも、腕や指を動かすこともできなくなった。

神経義肢は2度の手術によって装着した。まず2014年12月、コシェバーさんの脳の手の動きを司る領域に、脳をコンピューターに接続するためのBCIと呼ばれる電極を埋め込んだ。

次の手術では、筋肉を刺激するFESと呼ばれる電極36個を腕に埋め込んだ。この電極は、指と手首、ひじ、肩を動かす機能の回復の鍵を握る。

患者の脳の信号を腕のセンサーに伝達することで命令伝達機能を回復させる

コシェバーさんには「仮想腕」の動作を見せて心の中で反復してもらい、その時の脳の信号をコンピューターで記録。この信号を復元して命令信号に変換し、腕の電極に送り込んだ。

コシェバーさんは頭の中で命令信号を出し、神経義肢を経由して腕に伝達するやり方を学び、自力で手を伸ばして物をつかむことに成功。練習を重ねてコーヒーを飲んだり、自分で食事したりできるようになったという。

アジボエ准教授によれば、重大な副作用はなく、システムの安全性も確認された。コシェバーさんは今後少なくとも5年間は研究への協力を続ける意向だという。

アジボエ准教授は、「麻痺状態だった患者が物に手を伸ばしてつかむ機能を回復し、日常生活の動作ができるようになったのは、私の知る限りでは初めて」と話している。

全身麻痺の男性、右手の機能回復

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