平壌市内から見た北朝鮮の変化、CNN記者が取材報告 CNN EXCLUSIVE

CNN記者が平壌での取材の様子を報告する

2017.02.28 Tue posted at 17:37 JST

平壌(CNN) ウィル・リプリー記者らCNNの取材班が北朝鮮の首都平壌を訪れた。取材の様子を報告する。

私は、10度目となる北朝鮮への取材旅行から帰ってきたところだ。

北朝鮮は、外部の世界の大部分にとって依然として閉ざされた国だが、今回の訪問の間、取材班は、一般の人々の生活について、前例のない水準でアクセスすることができた。

こうした男性たちや女性たちは取材班が選出した。北朝鮮政府のガイドが米国のテレビ局と話すよう人々を一生懸命説得する必要が何度もあったが。

取材班は彼らに北朝鮮の孤立や経済的苦境、ドナルド・トランプ米大統領について意見を求めた。

彼らは同じようなことを言うことも多かったが(彼らにとっての唯一の情報源は厳しく管理された国営メディアだ)、取材班は徐々に彼らの生活の様子を垣間見るようになった。

多くの国々ではほとんどコメントに値しないかもしれないが、北朝鮮では驚くべきことだ。北朝鮮国内の取材でこれほど多くの自由が得られたことはこれまでに一度もなかった。北朝鮮は報道の自由という意味では世界で最も制約が厳しい国のひとつだ。

最新の取材旅行は画期的な出来事に満ちていた。取材班はCNNで最初となるフェイスブックを通じたライブ配信を平壌の街中から20分以上にわたって行った。

初めて、北朝鮮国内にいる間に、CNNのソーシャルメディアのフォロワーからの質問に対してライブで答えることができた。取材班はバーチャルリアリティー(VR)用のカメラでさまざまな場所を撮影することも許可された。その中には、金日成広場やフラワーショー、孤児のための中学校、新しい眼科病院が含まれる。

VRによる映像は近々公開する予定だ。

フラワーショーを訪れた男の子

私はまた、インスタグラムやツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアに写真や動画を投稿する完全な自由も得た。これは、北朝鮮の基準からすれば、本当に並外れたことだ。

おそらく、今回の取材の中で最も啓発的だったのは、北朝鮮のエコノミスト、リ・ジソン教授との会話だろう。

我々は、北朝鮮と中国との貿易関係や、国の配給制度では供給できないものを補完する闇市、北朝鮮で最も給料の高い仕事(炭鉱作業員やそのほかの肉体労働者)について話をした。

リ教授によれば、肉体的にきつい仕事は事務仕事よりも最大で2倍の支払いとなる傾向があるという。しかし、実際の給料については明らかにしなかった。北朝鮮は世界でも最も貧しい国のひとつで、1人あたりの国内総生産(GDP)が年間1000ドルをわずかに上回る程度の水準であることを考えれば、欧米の水準よりも多く稼いでいる人は誰もいない。

取材班が訪れた北朝鮮の百貨店は現実ではないように見えた。そこでは、エルメスやベルサーチ、グッチなどの服やアクセサリーが売られていた。カフェモカを8ドルで売るコーヒーショップも訪れた。

別の複数階の百貨店には高級な電子機器や家電が並んでいた。そこの最上階にはフードコートまであり、朝鮮の料理(地元の人たちにとても人気がある)から西洋風のバーガーとフライ(ちっとも人気がない)まで、あらゆるものが売られていた。

私は、プレートに食べ物を積み上げた何百人もの人々を見て驚いた。「飢えた」北朝鮮のイメージとは違っていた。わずか2年前に飢饉(ききん)が起きたと報じられたことを考えると、多くの人々の心にはそうしたイメージが刻み込まれているだろうが。

もちろん、平壌の生活から、そこ以外の暮らしぶりを推定することはできない。平壌は明らかにショーケースの街であり、リソースの大部分を受け取っている。

孤児の子どもたちを集めた学校の生徒たち

最も信頼された人々だけが平壌で生活し、働くことを許される。北朝鮮で最も豊かな街の外側で人々がどのように暮らしているのか取材班が自分たちの目で見ることは普通、許されない。そうした場所での厳しい日々の暮らしについては、国連や救助活動家、脱北者らが指摘している。取材班も訪問するたびに、アクセスできるよう要請を出している。

以前の訪問と同様、取材班は政府が手配した「遊覧旅行」にも連れていかれる。そこには北朝鮮が世界に見せたいと考えるものがあり、北朝鮮の社会主義制度の優位性と彼らが信じているものを証明しようとしている。

取材班がそうした場所に行きたいと要請することはない。とはいえ、北朝鮮訪問時にはそうした場所も取材することが期待されている。取材班はたいてい、こうした経験を北朝鮮をめぐるより大きな物語のなかに織り込もうとしている。こうした輝かしい新プロジェクトがそこでの生活の完全な現実を代表しているわけではないという文脈で常にとらえるようにしている。

取材班は平壌の新しい孤児のための中学校を訪問した。子どもたちの多くは炭鉱や工場や国営企業で働いていた両親を失っていた。

約70人の生徒が、取材班の前で音楽のパフォーマンスを披露した。その最中、私は彼らが全員、親を亡くしていると知って悲しみに襲われた。シャイで静かな子もいたが、満面の笑みを浮かべ、学校を訪れた奇妙な外国人に心から興味を持っているように見える子もいた。生徒たちは英語を学習するよう求められ、いくつかの単語を口にする勇敢な子どももいた。

生徒たちの生活水準が多くの北朝鮮の人々よりもはるかに良いことは明らかだった。報道によれば、最高指導者の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長自身が学校を設計し視察した。学校には水泳用のプールやコンピューターラボのほか、電気や熱を絶えず供給できるよう発電機も備わっていた。

スタジアムの前でダンスを踊る大学生たち

金委員長は500人以上の子どもたちに食料や生活必需品を十分供給するよう学校に指示を出したという。彼らはみな、金委員長を父親のように感じているという。子どもたちは政府の忠実な公僕となるよう育てられる。運転やコンピューター科学、料理といった職業能力を身に着ける。これらが一生の仕事となるかもしれない。

私は常に、北朝鮮政府が取材班を招待するのは我々をプロパガンダの目的に利用するためだということを念頭に置いている。取材班が見せられるのは、えりすぐりのものだけだ。

北朝鮮は私の17年におよぶキャリアのなかでも最も挑戦的な題材だ。北朝鮮にはシンプルなものや簡単なもの、率直なものは何もない。

見たもの、経験したものを常に疑う必要がある。

平壌に到着したのは、北朝鮮が中距離弾道ミサイル「北極星2」の発射実験を行った2日後だった。

羊角島国際ホテルにチェックインすると、国営テレビがミサイル発射の様子を報じていた。このホテルは、観光客や訪問者が平壌市内に迷い込まないよう、小島の真ん中に建てられている。

金委員長は過去3年に何度もミサイル発射を行っているが、今回の発射実験は、米国でトランプ政権が誕生してから初となるものだったこともあり、国際社会で大きく報じられた。

数時間以内に、北朝鮮以外の国々はミサイル発射を知った。しかし、北朝鮮の人々は翌日、国営メディアが公式発表するまで、そのことを知らなかった。

政府の建物の上に朝鮮労働党のシンボルが見える

市民が見聞きするものはすべて、2400万人の市民(少なくとも、テレビを見たりラジオを聴いたりできる電力がある人々)に放送される前に、入念に検査され承認を受ける。

普通の人々はインターネットは使えない。国際電話もかけられない。国営メディアが彼らにとって、外の世界とつながった唯一の(そして非常に小さな)窓だ。

若いときから北朝鮮の人々は、彼らの生活は米国による侵略の絶え間ない脅威にさらされており、そのため政府が少ないリソースを核とミサイルの開発に振り分けることは理に適っていると言われている。

何十年にもわたり、この単純で効果的なプロパガンダのメッセージは、金一族の3代にわたる統治が軍事化と市民に対する強力な支配を行うことを正当化する手助けをしてきた。

金一族は、おそらく地球上のどの政権よりも上手に指示を守らせコントロールする方法を完成させた。残りの世界を締め出すことでそれを行っている。北朝鮮は徐々に開かれつつあるが、しかしそれはあくまで、彼らなりのやり方でしかない。

北朝鮮での取材について

・政府当局者が常に取材班に同行した

・当局者はお目付役と呼ばれることを好まず、たいていはツアーのガイドのように行動した。しかしながら、彼らは、取材班が北朝鮮国内にいる間、取材班が何を取材しどのように行動するかについて絶対の責任を負っていた

・当局者が取材の動画や原稿を事前に見ることはなかった。しかし、彼らは撮影中、常に取材班に同行した。彼らは、取材班が訪れた場所の撮影許可を保証するためにさまざまな措置を取らなければならないこともしばしばあった

・取材班は平壌で最も人出の多い地区の一部でかなりの時間を費やした。こうした場所は以前は常に撮影が許されない場所だった。取材班はインタビューするため街中で無作為に取材相手を選ぶことができた

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