一生に一度の巡礼を エチオピアの聖地を行く

エチオピアのラリベラには毎年、エチオピア正教会のキリスト教徒が全国各地から巡礼に訪れる

2017.01.01 Sun posted at 16:33 JST

(CNN) エチオピア北部に位置するラリベラ。この場所には毎年、エチオピア正教会のキリスト教徒が全国各地から一生に一度の巡礼に訪れる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産にも指定されている「新しいエルサレム」が存在しているためだ。

ラリベラの人口は2万人ほど。しかし、1月初旬の「ゲンナ」と呼ばれるエチオピア暦のクリスマスになると、その人口は5倍に膨れあがる。神を求める巡礼のために来た人々だ。

キリスト教徒だったラリベラ王は12世紀、中東エルサレムが1187年にイスラム教徒の手に落ちたことを受け、第2のエルサレムの建設を命令。お互いにつながった11棟の教会が手で山肌に彫り上げられた。最もよく知られているのは硬い岩をくりぬいて作った聖ゲオルギウス教会で、ギリシャ正教の十字架の形をしている。

完工には23年を要した。遠くから見ることはほとんど不可能で、北方から侵攻してくるイスラム教徒から隠れて礼拝する安全地帯をキリスト教徒に提供した。

ラリベラに往来する巡礼者を取材した写真家のタリク・ザイディ氏は「誰もがこの場所を知っているわけではないのは驚きだ」と指摘。ラリベラを「隠れた宝石」と形容する。

教会群の壮麗さや周辺地域の美しさもさることながら、ザイディ氏が何より思い出すのは巡礼に訪れる人々だ。

同氏によれば、こうした人々はとても貧しく非常につつましい。お金を工面できた人は一生に1度の巡礼の望みを果たそうと、この場所にやって来る。エチオピアのさまざまな場所からやって来るが、ほぼ何も持たずに徒歩で訪れる人も多いという。

巡礼者は男女ともゲンナの前になると、ラリベラの特定の地域に集まり、野外のプラスチックシートの上で眠る。ザイディ氏によれば、数千人がこうして横になるが、難民キャンプのような雰囲気はない。人々は歌い踊ったり、聖書や祈とう書を読んだりして過ごす。この場所に来て独特のお祝いに加われたことを幸せに思う感覚が強いという。

日が落ちると、数千本のろうそくに灯をともして礼拝が続く。「この世にめったにないほど非常に美しく詩的な光景で、ロマンチックでさえある」という。

ゲンナ前夜の活動は朝5時に始まる。巡礼者らは白い衣服に身を包んで教会群に赴く。教会間の移動には各教会をつないだ地下トンネルを使う。

ザイディ氏によれば地下トンネルには象徴的な意味合いがある。通路の一つは同氏の推定で300メートルと非常に長く、真暗闇に覆われている。入り口と出口は1つずつしかなく、後戻りはできない。

外に出ると文字通り教会の玄関口に行き当たる。同氏が聞いたところによると、この通路は暗闇から光へ、つまり天国へと至る経験を表現しているという。

ザイディ氏は巡礼者や教会の聖職者と共に過ごす経験を「時間をさかのぼったかのよう」と形容する。近代とは無縁の場所であり伝統だ。一部の儀式では人々が密集した状態で立ち、どの方向にも動けない。儀式が終わるまでその場所にとどまり、気を失った場合でも倒れることはないという。

巡礼者らは夜になると、ろうそくの光や星明かりを頼りに集団で祈る。大半の人はそのまま夜明けまで祈り続ける。ザイディ氏は「あの夜は私が人生で目にしたものの中で最も魅惑的な光景だった。自分は宗教的な人間では全くないが、これらの儀式を見ていたら感動のあまり涙を流していた」と語る。

巡礼者らが翌日、町を離れると、ラリベラは再び元の規模に戻り、比較的無名の遺跡としての状態が翌年まで続く。

ただ、記憶は残る。ザイディ氏は「もし、人間の存在に感動したい、宗教に感動したいと思うのなら、ラリベラを訪れてほしい。信仰や精神性、これらの人々の優しさに涙を流すほど感動しないのであれば、何にも感動できないだろう。本当に素晴らしい体験だ」と力を込めた。

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