無線使ったインプラントでまひ克服、脊髄損傷のサルが歩けるように

無線を使ったインプラントがサルでの実験に成功した

2017.01.01 Sun posted at 14:16 JST

(CNN) スイスの大学の研究者らが、脳と脊髄(せきずい)を無線信号でつなぐ新種のインプラントを開発し、脊髄が損傷するなどして両脚が動かなくなる「対まひ」に陥ったサルの脚の動きを回復することに成功した。将来的には人間への応用も期待されている。

研究結果によると、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者らは、まひ状態のアカゲザル2匹の脚の動きを脊髄損傷から2週間以内に回復することに成功。1匹はわずか6日で動けるようになった。

研究では、2台の無線インプラントが脳と脊髄をつなぐ「インターフェース」として機能した。脳と脊髄にそれぞれインプラントを設置し、両者の間で神経信号をやり取りする仕組みだ。2台のインプラントはコンピューターを介して通信を行い、脳からの信号が損傷箇所を飛び越えて伝わることが可能になった。これにより信号が脊髄に到達し、神経刺激を与えて脚の中の特定の筋肉を脳の命令通りに動かすことができるようになった。

研究を主導したEPFLのグレゴワール・クルティーヌ教授(神経工学)によれば、この結果で鍵となるのは、思い通りの動きを誘発するために刺激を与えている点だという。同氏らは過去10年、脊髄が刺激を受ける仕組みの解明に取り組んできた。

同様の研究はネズミなどを使い過去にも実施されていたが、脳の活動を記録してこれを脊髄内の神経と連絡させたのは今回が初めてだという。無線を駆使した例も初めてだとされる。クルティーヌ氏らの研究チームは将来的に、この技術を人間にも応用したい考え。

対まひは大抵、脊髄や神経の内部が損傷することによって引き起こされ、脳と体の他の部位との間で神経信号を伝達できなくなる。損傷を負った位置に応じてまひの程度が決まり、損傷箇所が体の上部であるほどまひは悪化するとされる。

今回の新インターフェースでは2台の主要インプラントを使用。1台はセンサーとして脳内に取り付け、もう1台は神経刺激装置として脊髄内に埋め込んだ。通信経路を確保するため、損傷箇所をまたいで2箇所に設置した形だ。

1台目のインプラントは脳の運動皮質に設置され脳信号を検知し、脚の筋肉に歩行するよう命令を出す。まひを負った場合でも脳は歩くこと、歩行を命じる信号を出すことを考え続けている。

損傷がない場合、こうした脳信号は脊髄内の神経を伝わり、脚の筋肉の中にある神経に到達する。だが今回は無線によりコンピューターに信号を送信。コンピューターは信号を解読し、脊髄内に埋め込まれた刺激装置に新たなメッセージを送る。

この2台目のインプラントが脳やコンピューターの命令に基づいて電流を放ち、脚の中の特定の筋肉を動かす神経を刺激する。これにより筋肉が動いて収縮、歩けるようになる仕組みだ。特定の量の電流を神経刺激装置から放つことで意図した動きを再現しているという。

インプラントの機能を証明するため、クルティーヌ氏らはサル2匹の脊髄を部分的に損傷させてまひ状態にし、すぐ後にインプラントを挿入した。倫理規定に従い、損傷の程度は神経の再生により自然治癒しうる小規模なものとなった。サルたちがまひ状態にあるのは最初の数週間だけに限られるため、インプラントは損傷を加えた直後にテストされた。

この分野のすべての研究者にとっての目標はこうした技術を人間に応用し、対まひになった人々の日常生活の質を向上させることだ。ただ、今回の技術を人間に応用するためには、サルの場合に比べはるかに多くの課題が生じるとみられている。

脳と脊髄にそれぞれインプラントを設置し、両者の間で神経信号をやり取りする

人間の脳の運動皮質で脚の動きにつながる部分は、サルと比べて脳のはるか奥深くに位置する。脚の動きを可能にする仕組みも人間は非常に複雑だ。

ただ、オハイオ州立大学のアリ・レザイ博士は、人間への応用は可能だと信じている。同氏は今回の研究の意義について、脳の信号を検知してこれを脚の動きにつなげることが可能だと初めて示されたと指摘する。同氏は人間に関しても同様の方法を採用しているが、人間の場合は脚ではなく手を動かすのが目標だ。脳インプラントを使い、患者の腕に取り付けた機器に信号を送信。外部から筋肉を動作させる。

レザイ氏が発表した研究成果によれば、同氏のチームはこの方法を使い、24歳男性の右手指の動きと制御を回復させた。この男性は6年にわたり体の胸から下の部分がまひしていた。現在は以前より細かい動きができるようになったという。ただ同氏は、脚の中でこうした精妙な動きを実現するためにはさらに洗練された技術が求められるとの見方を示した。

クルティーヌ氏は今後の道のりを強く意識しており、「脚の動きに少し変化が生まれただけでは生活は大して変わらないだろう。機能を改善させるためには本当に大きな変化が必要になる」と指摘した。

最終的な目標は下半身まひに苦しむ人々の生活の質を改善することだ。同氏は「我々は現実的にならなくてはならない。この種の技術で人々を治すことはできないだろう。(だが)こうした技術があれば生活の質は改善できる」と話した。

脳にインプラント、脊髄損傷のサルが歩けるように 

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