米病院、胎児を子宮から取り出し手術 「2度目の誕生」成功

胎児の状態で手術を受けて子宮に戻る、「2度生まれる」経験をしたリンリーちゃん

2016.10.21 Fri posted at 13:37 JST

(CNN) 米テキサス州の小児病院が、出生前に腫瘍(しゅよう)が見つかった胎児を母親の子宮からいったん取り出して腫瘍を摘出し、再び胎内に戻す手術を成功させた。手術から12週間後に「2度目の誕生」を果たした女の子は、出生後の手術も乗り切ってすくすく成長している。

テキサス州プラノに住むマーガレット・ボエマーさんは、第3子の妊娠16週目に超音波検査で異常が見つかった。「深刻な事態だと医師に告げられ、胎児に仙尾部奇形腫があると診断された」というボエマーさんは、「強い衝撃を受けて不安に駆られた。この長い単語の意味も、診断されたらどうなるのかも分からなかった」と振り返る。

テキサス小児病院のダレル・キャス医師によると、仙尾部奇形腫は胎児の尾骨に発生する腫瘍で、新生児の腫瘍の中では最も頻度が高い。新生児3万5000人に1人の割合で発症し、症例数は女の子の方が男の子よりも多いという。

ボエマーさんはもともと双子を妊娠していたが、妊娠中期までに1人を流産していた。

仙尾部奇形腫は、そのまま経過を見て出生後に手術で摘出できる場合もある。しかし約半数は血流に異常が生じて胎児に問題が起きる。場合によっては腫瘍に血流を奪われて胎児が心不全を起こし、死亡することもあるという。

ボエマーさんの場合、胎児の状態は日を追うごとに悪化し、何らかの手を打つ必要があると医師団から告げられた。人工妊娠中絶を勧める医師もいた。

母親のボエマーさんと姉たちに囲まれるリンリーちゃん

しかしキャス医師らは胎児の手術を提案した。ただし簡単な手術ではなく、胎児が助かる確率も高くはなかった。

「23週目で腫瘍が娘の心臓を封鎖して心不全を起こさせていた。このまま腫瘍に娘の体をむしばまれるか、娘に生きるチャンスを与えるかの選択だった」「答えは決まっていた。娘に命を与えたいと思った」(ボエマーさん)

妊娠23週と5日目で医師団は胎児の緊急手術に踏み切った。この時点で腫瘍は胎児よりも大きくなりかけていた。

手術は5時間に及んだが、胎児の手術は短時間で終わらせる必要があり、20分で済ませたという。母親の健康を損なうことのないよう、子宮の切開と縫合は時間をかけて慎重に行った。それでも胎児を取り出すために大きく切開する必要があり、羊水はすべて流出した。

手術中に胎児の心拍が低下して事実上の心停止状態に陥る場面もあった。しかし心臓の専門医が投薬や輸液などの措置を施し、医師団は手術を続行。腫瘍の大部分を摘出すると、胎児を母親の胎内に戻して子宮を縫合した。

キャス医師は、「あのように子宮を切開してすべて元通りにうまく縫合できたのは、一種の奇跡だった」と語る。

「2度目の誕生」から4カ月。リンリーちゃんはすくすく成長している

ボエマーさんはそのまま出産するまでベッド上で安静を保ち、胎児は回復して順調に成長。妊娠36週に近付いた12週間後の6月6日、帝王切開で体重2400グラムの女の子が生まれた。女の子は両方の祖母の名を取ってリンリー・ホープちゃんと命名された。

リンリーちゃんはすぐに新生児集中治療室に運ばれたが、検査の結果、健康状態は良好と診断されて新生児室に戻った。

生後8日で2度目の手術を受けて、残っていた腫瘍もすべて摘出。数週間後に無事退院して、家族の待つ自宅に帰宅した。

キャス医師によると、その後のリンリーちゃんは健やかに成長している。同医師は以前にも同様の手術を成功させた実績がある。「その女の子は今7歳くらいだと思うが、カラオケでテイラー・スウィフトを歌っている」という。

妊娠半ばで娘が難病と診断されて一時は助からないと言われ、困難な手術を切り抜けたボエマーさん。「本当につらかった」と振り返りながら、姉たちと元気に遊ぶリンリーちゃんの笑顔に「あらゆる苦難を乗り切った甲斐があった」と目を細めている。

胎児の状態で手術、「2度生まれた女の子」

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。