高度に組織化、暗号化アプリで連絡――捜査で判明したISISの実態 CNN EXCLUSIVE

捜査筋からの情報により、テロ組織の実行犯の様子が明らかに

2016.09.06 Tue posted at 16:57 JST

パリ(CNN) 過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」によるパリ同時多発テロ事件を捜査している欧州当局はこれまでに、拘束した容疑者らに対する取り調べの結果、ISIS内部の仕組みや計画について新たに詳細な情報を得ていることが分かった。CNNが捜査筋から大量の資料などを独占入手した。

2015年11月に起きたパリ同時テロに関連して拘束されたISISのメンバー2人の供述や携帯電話のデータなどから、当時さらに大規模なテロが計画されていたことが判明した。また、この2人と同じグループに属していた別の人物が最近まで逃走中だったことも明らかになった。

捜査資料からは、高度に組織化されたテロ集団が攻撃の実行に突き進む姿が浮かび上がる。情報筋によれば、欧州には今もISISのメンバーが潜伏し、シリアにいる幹部からの指示を待っているとみられる。

CNNのテロ対策専門家、ポール・クルイックシャンク氏は「ISISの対外テロ計画は拡大の方向にあり、手口も高度化している。実行犯には巧妙な支援態勢が設けられている」と指摘する。

CNNは数カ月前にフランス語を中心とした捜査資料約9万ページ分を入手し、内容を詳しく調べてきた。そこからISISの対外テロ部門をめぐる多くの新事実が明るみに出た。

パリのテロではサッカースタジアムも標的に

そして、ISISの統括責任者は実行犯グループに渡す情報や資金を必要最小限に抑え、グループ内でも偽名を使わせるなどして統制を図っていること。

また、実行犯同士が不法越境の手口などについて、常に情報を交換している様子も判明した。「列車のトイレに隠れろ」といった助言も飛び交っていた。

欧州の捜査当局者らによると、ISISはパリ同時テロを実行した当時、フランス国内の商店街やパリのスーパーマーケット、オランダでのテロも計画していた。さらに最近入った情報によれば、英国でのテロに向けてメンバーを同国へ侵入させる動きを加速させている。

欧州の対テロ当局者がCNNに語ったところによれば、欧州各地でISISのメンバーが次々と見つかっているという。

欧州からいったんシリアなどへ渡り、その後送り返されたメンバーたちは、暗号化通信で知られる「テレグラム」などのメッセンジャーアプリで連絡を取り合っている。クルイックシャンク氏によれば、こうしたアプリによってグループの全員が一斉に行動できるようになり、テロ計画の手口が劇的に変わる可能性もある。

パリ同時多発テロでは100人を超える死者が出た

捜査資料で名指しされている2人のメンバーは、パリ同時テロの実行犯に加わることになっていた。アルジェリア出身のアデル・ハッダディ容疑者と、パキスタンの過激派組織で爆弾製造を担当していたとされるムハンマド・ウスマン容疑者だ。

両容疑者はパリ同時テロの6週間前に、ISISが首都と称するシリア北部ラッカを出発した。この時の4人グループのうち残る2人は、テロ実行犯としてパリ郊外のスタジアムで自爆することになる。一行は10月初めにトルコへ越境し、同国の海岸部へ向かった。

4人は互いの本名も、自分たちの最終的な任務も知らされていなかったとみられる。ハッダディ容疑者は調べに対し、当時分かっていたのは「神のために何かをする」目的でフランスへ送り込まれるということだけだったと述べた。

まず、テロ実行犯がソーシャルメディアを盛んに活用し、通信内容の多くが暗号化されていること。正体を隠すために自分の電話番号を自由に選べるアプリも使われていた。

グループに指示を出していたのは「アブ・アハマド」と呼ばれるISIS幹部だった。外国人実行犯らを勧誘して訓練し、パリへ送り込んだ中心人物とみられる。この人物がハッダディ容疑者ら4人にも遠隔操作で車や携帯電話、シリアの偽造パスポートなどを手配した。正体不明の仲介人を通して資金を渡し、暗号化アプリで連絡を取っていた。

4人はシリア難民を装い、トルコ西部イズミルからボートでギリシャへ向かった。この時にハッダディ、ウスマン両容疑者がギリシャ海軍に拘束され、手持ちの資金を取り上げられた。残る2人はそのままパリをめざしたが、両容疑者はここで1カ月近く足止めされたため同時テロには間に合わなかったようだ。

容疑者の2人はラッカからギリシャを抜け、オーストリアに到達した

両容疑者は10月末に釈放された後、すぐにISISに連絡した。2000ユーロ(約23万円)の資金が送金され、2人は難民として北上を続けた。ウスマン容疑者はウルドゥー語しか話せず、ハッダディ容疑者もほとんどアラビア語だけだ。ウスマン容疑者の携帯電話には、移動中に20件ほどのアダルトサイトを閲覧していた形跡が残っている。

両容疑者の携帯電話には、欧州や中東各地にいる何十人もの連絡先が記録されていた。

パリ同時テロ翌日の11月14日、両容疑者はオーストリアのザルツブルクに到着した。難民申請の手続きを済ませて市内の難民センターに入り、そこで何週間か待機した。別のテロ計画に参加する予定だったとみられ、パリへの列車を調べたり、ベルギーやフランスに電話をかけたりしていた。捜査当局によると、2人はこの時、アビド・タバウニ容疑者というモロッコ人の合流を待っていたとみられる。

タバウニ容疑者の名前は、捜査の過程でハッダディ容疑者の供述や携帯電話のデータから初めて浮上した。

調べによると、タバウニ容疑者はハッダディ容疑者らと同じようにシリアから難民に紛れて北上し、12月10日にザルツブルクの難民センターに入った。ちょうどこの日にオーストリア治安当局が同センターを急襲し、パリ同時テロの実行犯と関わっていた疑いでハッダディ、ウスマン両容疑者らを逮捕した。タバウニ容疑者はこの時姿を消していたが、同容疑者の携帯電話がハダディ容疑者のベッドのわきで充電されているのが見つかった。

パリ市民へのサポートを示すために三色にライトアップされたエッフェル塔

携帯電話には、パリ同時テロを首謀したアブデルアミド・アバウド容疑者のグループに関連する電話番号や、ハッダディ容疑者の連絡先、難民センター内での写真などが保存されていた。ハッダディ容疑者はタバウニ容疑者との面識を否定したが、捜査当局は3人がISISのテロ計画に向けて準備を進めていたとの見方を示す。

ベルギーの検察当局によると、タバウニ容疑者は今年7月になってブリュッセルで拘束され、オーストリアへ引き渡された。ハッダディ、ウスマン両容疑者はフランスに身柄を引き渡され、同国でテロ罪に問われている。

CNNが複数の情報筋から聞いたところによると、同じように難民に紛れて欧州域内へ侵入しているISISのメンバーはほかにもいるとみられる。フランスやベルギー、ドイツで最近、このルートをたどってきた過激派の拘束が相次いでいるという。

捜査当局が今回の捜査で得た情報は、今後のテロ計画を察知するうえで活用される見通しだ。

ハッダディ容疑者の携帯電話は、同容疑者が逮捕された後もつながっていた。逮捕から5日後の12月15日には、アブ・アハマドを名乗る統括責任者から「どうしている。何が起きたのか」と尋ねるメッセージが届いていた。当然ながら、ハッダディ容疑者から返信が送られることはなかった。

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