対ISIS、モスル奪還の決戦迫る イラク軍を現地取材

イラク北部モスルの奪還作戦に臨む部隊を取材

2016.08.24 Wed posted at 12:01 JST

イラク北部ケイヤラ(CNN) イラク軍は近く、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の拠点となっている北部モスルの奪還に向けて攻勢を仕掛けようとしている。モスルから約60キロの地点まで迫った部隊をCNNが取材した。

軍用車が北部ニネベ州の荒野を横切り、ケイヤラの町へ向かう。同州の州都、モスルの奪還に向けた次の前線だ。ISISが軍の視界をさえぎるために火をつけた石油タンカーから、真っ黒な煙が上がっている。

一行はがれきの山と化した光景の中を通り抜けて中心部に近付いた。ここからモスルまではわずか60キロ。2年前からISISに支配されているモスルを、年内に解放するのが目標だ。

CNNが前回訪れたのは今年の4月。イラク軍の部隊は当時よりずっと北上し、モスルの包囲を固めつつある。7月には国内第3の規模を誇るケイヤラ空港を奪還した。敷地内に残る爆弾の処理と滑走路の片づけが完了すれば、イラク軍や米軍によるモスル進攻の重要な拠点となる見通しだ。

ニネベ州での作戦を統括するナジム・ジョボウリ大将は、ISISが弱体化しているのを感じている。かつてISISの戦闘員は大半が外国人だったが、今では外国人と地元出身者が交じりあっている。同大将は「外国人戦闘員が不足しているのはないか」との見方を示す。ただし、ISISがモスルでの戦闘に備え、外国人戦闘員を温存している可能性も否定できないという。

大将が立つ民家の庭には、イラクやシリアでISISのために製造されたという武器が並べられている。迫撃砲は兵士たちの背より高い。イラク軍部隊が使う同種の武器より大きいものもある。ISISには優れた技術を持つ協力者がいるようだと、同大将は指摘する。

ニネベ州での作戦を統括するイラク軍のジョボウリ大将(右)

ジョボウリ大将が一番心配しているのは、モスル市内に少なくとも100万人残っている住民たちの安全だ。ISISは民間人を「人間の盾」として使う戦略で知られる。

この場所からそう遠くない荒野の真ん中に、ISISから逃れてきた避難民が暮らす仮設キャンプがあった。砂漠を吹き抜ける熱い風で、何もかも砂まみれだ。

孫娘の腕につかまった年老いた女性は、ISISに殺された息子の写真を持っていた。次々と案内されたテントの中には生気のない、脱水症状の乳幼児たちがいた。子どもたちは、最後にシャワーを浴びたのがいつだったか思い出せないという。行く先々で耳にするのは「のどがかわいた」と訴える声だ。

ここにはきれいな水がない。唯一の井戸から引かれた水を飲んで体調を崩す人が続出している。1000人以上の避難民に対してトイレは2カ所。1日に2回の食事は豆ばかりだ。

国際機関やイラク政府が援助を約束しているが、前線から近過ぎるために物資が届かない。本格的な戦闘に備えて避難所を空けたり支援物資を備蓄したりしておく方針のせいで、ここの人々はさらに悲惨な生活を強いられている。

支援団体によると、このうえモスルから100万人の住民が逃れてくれば「今世紀最大の人道危機」となる恐れがある。

避難民キャンプで暮らす少年たち。支援の不足による劣悪な環境が懸念されている

周囲にあるほかのキャンプもすでにパンク状態だ。モスルの東方、クルド人自治区に設けられたデバガのキャンプは、4月から5倍の規模に膨れ上がった。拡張工事も追いつかない。多くの家族が防水シートの下や仮設シェルター、学校の校舎にひしめき合って待機している。

「紛争や暴力から逃れ、心に傷を負い、脱水や過労に陥った状態でたどり着いた人たちだ。それなのに土地が足りなくて必要なサービスを提供することができない」――支援団体「ノルウェー難民委員会(NRC)」の担当者はそう嘆く。たとえクルド自治政府によって土地が割り当てられても、資金面の問題は解決しない。

7月には緊急資金として2億8400万ドル(約300億円)あまりの拠出が決まった。しかし大量の避難民が発生したり危機が手に負えない規模に達したりする前に、ただちに交付されなければ意味がない。すでに前線に沿った全ての地域が、かろうじて脱出してくる避難民であふれている。

モスルの北方や東方からは、自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」がモスルに迫っている。ペシュメルガの検問所の陰にうずくまっているのは、逃げてきたばかりの3人の女性たち。義理の姉妹同士だという。ISISが女性に着用を命じている黒いベール姿で、じっと座っている。その周りを囲む子どもたち。夫たちは2年前、職を求めて家を出たきり帰宅できていない。父親の顔をまだ見たことのない子もいる。

女性たちはISISの支配下にとどまっている親族を心配して顔を隠し、脱出の経緯についても多くを語ろうとしなかった。親類の男性がひとり、ペシュメルガが近付いてきた時を見計らって、みんなで逃げ出せるチャンスをつかんだと説明した。

男性は「脱出させてあげられてよかったと思う一方で、一緒に来られなかった両親のことを思うと胸が張り裂けそうだ。どうやって連れ出せばいいのか分からない」と、肩を落とした。

イラク、避難民キャンプの窮状を見る

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