(CNN) 世界最高峰の国際ヨットレース「アメリカ杯」。そこでは、億万長者が資金提供し最新技術を駆使して造られたヨットの上で、世界のトップセーラーたちが最高の賞を目指してしのぎを削る。
しかし、その華やかさや魅力の陰には、関係者たちの並々ならぬ苦労や努力がある。
「自分も当初はただの雇われのヘルパーにすぎなかった」と語るクーパー・ドレスラー氏(25)は、重労働をいとわない真摯(しんし)な姿勢が評価され、見事、前回大会の優勝チームであるオラクル・チーム・USAのメンバーに迎えられた。
「ちょっとした仕事や雑用、コンテナへの荷物の搬入を行っていた。フォークリフトの運転はかなり上達したし(中略)まさか溶接を学ぶとは思わなかった」
数年前、セーラーを志望していたドレスラー氏は、2017年6月に開催される第35回大会の開催地であるバミューダ諸島で、タイトル防衛を目指すオラクル・チームの拠点作りの仕事に就いた。
「この全ての場所に、いくばくかの自分の血と汗と涙がしみ込んでいる」とドレスラー氏は語る。
「現場ではあらゆる仕事に携わり、どの仕事も興味深かったが、艇上のシステムに特に魅力を感じた。そこでは、あらゆるものが、油圧的に、あるいは電子的に、あるいはロープで制御されている。結局、私はロープでチームに貢献することになった」
「垂木に上って作業をしたような時、下にあるこの素晴らしいヨットを見つめ、『クレイジーだ。自分がこのヨットに乗れるわけがない。これに乗れるのはトップレベルの人たちだけだ』と思っていた」
しかし、ドレスラー氏の勤勉さがジミー・スピットヒル氏の目に留まる。スピットヒル氏は2010年の第33回大会でオラクル・チームのスキッパー(艇長)を務め、見事チームを初優勝に導き、さらに3年後の第34回大会でもチームの指揮を執り、チーム・ニュージーランドを相手に1勝8敗から大逆転で優勝を勝ち取った人物だ。
スピットヒル氏はCNNのインタビューの中で、「われわれのプログラムの強みは、チームのショアクルー(サポートメンバー)だと考えている。前回の逆転劇を果たした時にそう感じた」と述べる。「彼らは誰よりも長く働き、誰よりも早く海に出て作業し、翌日のために深夜までボートの用意をしていた。彼らこそ、わがチームの陰の英雄だ」
「クーパーは、夢のような話だ。よく『どうすればアメリカ杯のチームやセーリングチームに参加できるのか』と聞かれるが、最も大切なのは取り組む姿勢や仕事に対する倫理観だ」
「ある日クーパーがやってきて、チームの手伝いがしたいと言った。とにかく仕事がしたいということで、最初はタダ働きだった。その後、彼はわれわれのショアチームのサポートに参加し、電線の敷設や溝掘りにも携わった」
「彼はどんな仕事をしている時も常に明るく、意欲的で、真摯に取り組んでいた。われわれは皆、そんな彼を見て『彼をチームに迎え入れよう』と考えた」
そして昨年、ドレスラー氏はセーリングクルーに昇格し、グラインダーのポジションが与えられた。グラインダーは肉体的負担の大きいポジションで、ウインチを操作して、セール(帆)を上げたりブーム(帆桁)を動かしたりする。
「(昇格は)全く予想していなかったので、非常に驚いた」とドレスラー氏は語る。
「そのあと、少し歩いたのを覚えている。『これは夢に違いない。誰かつねってみてくれ!』というような気持ちだったから」
ドレスラー氏は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)を卒業後、地盤工学の会社に就職したが、わずか2カ月で退社し、フルタイムのセーラーになることを決意する。
ドレスラー氏は2013年のユースアメリカ杯に出場したが、まさか自分が最高峰のアメリカ杯に出場するとは夢にも思っていなかった。
「『自分はボートに乗ってセーリングをすべき人間だ。セーリングの経験もあり、セーリングを始めたら他のことなどやっていられない』というような態度は取ったことがない」
「そんな風に思ったことは一度もないし、(セーリングチームは)非常に小さなコミュニティーなので常に適切な姿勢で取り組むことが重要だと思う。小さなチームなので、とにかく必死に働く必要がある」
ドレスラー氏は、自分がセーリングクルーになった経緯を決して忘れないという。
「夜間に重労働をする人も、実際にボートに乗ってレースを戦う人も、同じ大きなチームのメンバーであり、皆そういう気持ちで互いに接している」
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この記事はCNN.com内のSAILING SUCCESSの記事を日本向けに編集したものです。
裏方からクルーへ オラクル・チーム・USA