「私の息子ではない」 ダッカ襲撃実行犯の父親、取材で涙

ダッカで発生した立てこもり事件では人質20人と警官2人が死亡した

2016.07.05 Tue posted at 16:09 JST

ダッカ(CNN) 「これは私の息子ではない、息子ではない」と、涙ながらに繰り返す父親――。バングラデシュの首都ダッカで起きた立てこもり事件の実行犯の1人、サメフ・ムバシール容疑者(18)は、過激派思想とは一見縁のない裕福な家庭に育った。

家族によると、ムバシール容疑者は今年2月29日、ポップコーンを食べながら試験対策の授業に出かけたきり、突然姿を消した。

家出か駆け落ちか、誘拐されたのか。イスラム過激派に誘い込まれた可能性もある。家族は心配して捜し回った。そして今月2日、最も恐れていたシナリオが現実となった。親族から見せられた過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」系サイトの画像に、立てこもり事件の実行犯の1人として同容疑者が写っていたのだ。

父親のハヤト・カビールさんはインタビューで「私の息子ではない」と繰り返し、「そんな所へ行くと分かっていたら、真っ先に命がけで止めたのに。あり得ないことだ」と首を振った。

ムバシール容疑者の父親。宗教に対する息子の関心を満たそうとコーランの英訳を与えた

バングラデシュでは最近、宗教的少数派らを狙った襲撃事件が続発していた。そのほとんどが経済的に恵まれない、イスラム学校出身者による犯行だったが、今回の事件は違う。

実行犯の中心は裕福な家庭に育ち、私立学校で教育を受け、何不自由なく進んで世俗社会を渡ってきた若者たち。喫茶店でしゃべったりスポーツをしたり、フェイスブックを利用したりする「ごく普通」の若者だったと、専門家は指摘する。

ムバシール容疑者の家庭も「中の上」の層に属していた。カビールさんは通信企業の幹部で、イスラム教徒だがそれほど熱心な信者ではないという。

同容疑者は常に宗教に関心を示し、家族もその好奇心を抑え込もうとはしなかった。「ゆがんだ解釈でなく直接原典を学んだほうがいい」と、カビールさんが英語版の聖典コーランを与えたこともあった。

息子は感受性が強く、友だちが多いタイプではなかったと、カビールさんは振り返る。過激派はそこに目を付けたのかもしれない。カビールさんは「彼らが実際にどういう言葉をかけたのか分からないが、本人の自信のなさや信仰心につけこんで仲間意識を植え付けたたのだろう」と話す。

カナダ軍兵士が3540メートル離れたISIS戦闘員の狙撃に成功=ISIS

当局はこれまでに、射殺された実行犯5人の名前を公表した。6人目は重体で、取り調べに応じられる状態ではないとされる。

5人のうちムバシール容疑者を含む3人が私立大学に通い、英語で教育を受けていた。数カ月前に行方不明となり、家族から捜索願が出ていた点も共通している。

これまでに実施された複数の研究でも、欧米からISISに誘い込まれる若者らの多くは高学歴で、中上流階級の出身者が多いと報告されている。

ただダッカの事件については、ISISが犯行声明を出しているものの、イヌ情報相らは国内の非合法組織「ジャマトゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」による犯行だった可能性を指摘する。さらにパキスタンの関与を疑う声もあり、同国外務省が強く反発している。

カビールさんは犠牲者の遺族らに向け、「こんなことを言っても助けにならない、耳に届かないかもしれないが、それでも言いたい。これは息子が意識的に決断したことではなかったと」と訴えた。

ムバシール容疑者の遺体とはまだ対面する気持ちになれないと話し、「息子はその遺体の中にはいないと信じていたい。まだ希望を持っていたい」とつぶやいた。

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