世界最大規模の機内食工場、その驚愕のスケールとは

=Chris Dwyer/For CNN

2016.05.21 Sat posted at 19:15 JST

(CNN) 機内食が誕生してから今年で97周年を迎える。1919年、英航空会社ハンドレページのロンドン発パリ行きの便で世界初の機内食が提供された。この時に出されたのはサンドイッチと果物のみだった。

それから約100年たった今、機内食の規模は大きく拡大した。それをどこよりも実感できるのが、ドバイにあるエミレーツ航空の子会社エミレーツ・フライト・ケータリング(EFC)の機内食工場だろう。

世界大手のエミレーツ航空は、世界142カ所に向かう400以上の路線向けに毎日、最高で18万食の機内食を用意する。そのうちの65%はドバイで製造される。残りは世界各地の工場で作られているが、アジア太平洋地域だけでも24カ所に及ぶ。

EFCの上級副社長ヨースト・ハイマイヤー氏は、年間550万食に上る機内食の製造・管理の責任者だ。

ホテル・サービス業で25年の経験を持つハイマイヤー氏は、常にレストランの音や匂いに魅了されてきたという。そして気が付くと、莫大な規模のケータリング業務を担う立場にいた。

ハイマイヤー氏は日々、自分の職務の重要性を実感する。特にエミレーツの場合、フライトの行き先が多岐にわたるため、用意すべき料理も多岐にわたる。「南アジアを例にとると、われわれの便はインドの8都市に飛んでおり、都市によって味や料理の好みが異なる。その上、パキスタン、バングラデシュ、スリランカなど、他の国々も考慮する必要がある」

ハイマイヤー氏は、機内食にまつわるさまざまな迷信を払拭(ふっしょく)したいと考えている。

=Chris Dwyer/For CNN

機内食に関してよくある不満は、機内食のメニューは変わらず、乗客はいつも以前食べたのと同じ食事を食べるはめになるというものだ。

この点についてハイマイヤー氏は「われわれは毎月メニューを変更しており、提供するメニュー項目は年間7000種類に及ぶ。ファーストクラスだけで、254種類のスープを用意している」と指摘する。

しかし、それだけ膨大な量の食事の準備には、当然、食の安全に対する非常に大きな責任を伴う。

工場の中でも、その規模に最も感動させられるのが調理場だ。500人のシェフが、膨大な量の生鮮食品を調理し、それらを超急速冷凍庫で冷凍する。

ハイマイヤー氏はこの点についても「われわれは完全なトレーサビリティーを確保している」とし、「すべてのフライトで提供するすべての料理に使用されるすべての食材を把握している」と付け加えた。

総工費1億5900万ドルのEFCの工場見学ツアーは、事前に厳格な安全基準を満たさないと参加することすらできない。ツアーの数週間前にアンケート用紙に記入し、当日、受付でパスポートを預けた後、空港式のセキュリティーチェックを受ける。そしてヘアネットとコートを装着し、最後のセキュリティーチェックを受けた後、さらに複数の扉を通過する。

この工場では、毎日300万点もの使用済みの食器や器具が分類、洗浄されている。飛行機から回収されたトロリーは、この工場ですぐに食べ物用、飲み物用、免税品用に分別され、500人の作業員が操作する専用の機器の中で洗浄される。

=Chris Dwyer/For CNN

ハイマイヤー氏によると、食材を調理してから乗客が実際に食べるまでの保存期間はわずか72時間だという。安全規制により、民間航空機内では直火で焼くことが禁じられているため、客室乗務員は調理済みの冷凍食品を温めるだけだ。

工場の傍らで、山のようなエッグマヨネーズがロールパンに塗られる。作業は2人の作業員が協力して行う。1人がミニベーグルの上にクリームチーズを塗り、もう1人が薄切りのスモークサーモンを添える。レストランのような盛り付けにするために、複数の作業員が作った「お手本」も用意されている。

ところで、気圧の食べ物への影響はないのだろうか。たしかに料理の見栄えは大事だが、肝心要の味の方はどうだろうか。

高度1万メートルの機内では、与圧による湿度の低下が人間の味覚に影響を及ぼし、食べ物や飲み物の味が落ちるといわれるが、ハイマイヤー氏はこの見解に異議を唱える。

「例えばエアバスA380やボーイング777の新型機には新技術の導入や莫大な投資がなされ、現在、航空機内は、標高2500メートルのスイス・アルプスのヴェルビエと同じ状態だ」

ハイマイヤー氏は「ヴェルビエで、シェフやソムリエにその標高に適した食事やワインを注文する人はいない。もっとも、現在の機内環境でも、地上なら味わえるはずの繊細な味を上空で味わうことはできないかもしれない。しかし、この問題は大胆な味付けにすることにより軽減できる」と指摘。

=Chris Dwyer/For CNN

「1万2000メートルの上空では味が鈍るという迷信(とわれわれは考えている)に基づいて食事やワインを変えることはない」と付け加えた。

エミレーツ航空は、機内食の品質維持の一環として抜き取り検査を実施している。ハイマイヤー氏は「私は品質管理チームとともに毎日作業場を回り、試食を行う。予告なしで訪問するため、作業員たちはわれわれがどこで、何を試食するか知らない」と語る。

また熟練のワインの専門家でもあるハイマイヤー氏は、エミレーツの多様なワインリストの管理も担っているため、ワインの試飲も行う。

エミレーツは昨年、ワインを瓶詰されて市場に出る前に購入し、地下室に貯蔵するために、向こう10年間に5億ドルを投資すると発表した。

ハイマイヤー氏は、「ビジネスクラスやファーストクラスに乗る余裕のある乗客は、普段、ミシュランの2つ星か3つ星レストランに行っている人々だ」と指摘。ワインを大量に仕入れることで、最高品質のワインを購入し、乗客に提供できるようになるという。

現在、エミレーツは全路線で1日60種類のワインを乗客に提供している。また、年間では120種類のワインを扱い、その多くは各路線特有のものだ。

「例えば、ポルトガル行きの便ではポルトガル産のワインを提供する。南アフリカや南米でも同様だ。多くの乗客を驚かせたいので、少量のボトルで提供する場合が多い」(ハイマイヤー氏)

=Chris Dwyer/For CNN

ワインの品質管理について、ハイマイヤー氏は「われわれは大量のワインを試飲している。3週間おきに、試飲パネルとともに世界中のワインを試飲する」と語る。

「そして、2~3カ月に1度、より公式な試飲会が行われ、ティム・クラーク・エミレーツ航空社長も参加する。この試飲会で、ファースト、ビジネス、エコノミーの各クラスで提供する新しいワインをチェックする」(ハイマイヤー氏)

最後の重要な質問は、世界中のフライトの乗客が関心を持っていることだと思うが、2002年物のソーテルヌや2003年のドン・ペリニヨン・ロゼといった高級ワインを乗客がグラスの半分しか飲まなかった場合、ボトルに残っている酒はどうなるのか。流して捨ててしまうのか。

この点についてハイマイヤー氏は「ターンアラウンド・タイム(航空機が着陸してから再び出発するまでの時間)次第だ。製品の品質は極めて重要だが、ワインを廃棄しないためにできる限りの努力をしている」と語る。

「ワインを正しく保存できないくらいなら廃棄した方がいいという残念な決断を下さなくてはならない場合もあるが、一般に、ターンアラウンド・タイムが短い場合は、ワインを最高の状態に保つために機内であらゆる対策を講じる」(同氏)

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