シリア北部で進む滑走路拡張工事、ここが対ISIS作戦の最前線 CNN EXCLUSIVE

滑走路の拡張工事が進められていた

2016.02.07 Sun posted at 17:59 JST

シリア北部(CNN) シリア北部のイラク国境に近い町ハサカの郊外で、一本の滑走路を拡張する工事が行われている。米軍が過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の掃討作戦のために設けた新たな拠点を、CNNの取材班が訪れた。

取材班のマイクロバスから見えるのは、数十匹の羊の群れを見守る羊飼いと、平原に点在する採油ポンプ。青い空には戦闘機の残した飛行機雲がゆらめく。

日干しれんがの村を走り抜けると、遊んでいた子どもたちが驚いて足を止めた。頭に赤と白の布を巻いた年配の男性たちが、けげんそうな視線を向けてくる。ここにはアラブ系の部族とクルド人、イスラム教徒とキリスト教徒の住民が混在している。首都ダマスカスから遠く離れ、中央政権には長年見向きもされなかった農村地域。それが今では対ISIS作戦の拠点として、米国防総省などからにわかに注目されている。

目的地の滑走路は、もともと農薬散布機の離着陸に使われていた。米軍輸送機などが着陸できるように長さを700メートルから1320メートルに延ばし、積み荷を降ろすスペースも整備する工事が進んでいる。

近くに住む年配の男性が、羊の世話の手を止めてお茶を出してくれた。男性の部族はアラブ系だが、クルド人と良好な関係を維持している。近くでヘリコプターや飛行機の音は聞こえるけれど、滑走路に着陸する場面はまだ見たことがないという。

米軍がこの場所を選んだのは、ISISの前線基地や資金源の油田まで160キロと比較的近い一方で、地元民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」の支配地域内に位置しているからだ。

上空を有志連合の航空機がパトロールしている

滑走路付近には管制塔も照明施設も、米軍の制服姿もない。ただ周りを囲む盛り土と、地ならしのトラクターが見えるだけ。警備役の地元住民が2人、日なたでたばこを吸っている。だがカメラを回し始めた直後に、YPGの治安部隊「アサイシュ」の隊員2人がトラックで現れ、取材班は離れた場所へ誘導された。

「ここは立ち入り禁止の軍事区域だ」と1人が言う。ハサカでは、ISISによる自爆テロも珍しい事件ではない。

米国はこの滑走路を使って、クルド人やアラブ系部族、そしてこの地域に展開する小規模な米軍特殊部隊に物資を届ける計画だ。

米国防総省は建前上、シリアの飛行場を「占領」してはいないとの立場を取る。一方で米中央軍の報道官は先月、「駐シリア部隊は常に後方支援の効率向上を図っている」と強調した。

米国にとって、2万5000人規模の戦闘員を展開できるYPGは地上での有力な戦力となりつつある。YPGは2014年、有志連合による空爆の援護を受けて、トルコ国境の要衝アインアルアラブ(クルド名コバニ)からISISを撃退。その後もさらに広大な土地を奪還し、今ではトルコとの国境地帯を大部分掌握してISISと外部との往来を阻止している。

ただし米国は、YPGに対する武器の直接供給には慎重な立場を示してきた。トルコがYPGをテロ集団とみなし、国境付近でこれ以上勢力を拡大することは認めないと明言しているからだ。米国はYPGとトルコの間で微妙なバランスを保つことを強いられている。

「合同作戦本部」で情報がやり取りされる

しかし、先ごろ、米国務省の対ISIS有志連合特使を務めるブレット・マクガーク氏がコバニを訪問したことからも、YPGとの関係を重視する姿勢は明らかだ。ジュネーブでのシリア和平協議には、トルコへの配慮からYPGが招かれなかった。マクガーク氏の訪問には、これに激怒したYPGの指導者らをなだめるという意図があったとみられる。

クルド人とアラブ系勢力が結成したシリア民主軍(SDF)は現在、有志連合から空爆の援護を受け、ISIS支配下の油田や補給路への攻撃を続けている。その「合同作戦本部」が置かれているのは、ハサカ南郊にあるアパートの廃墟だ。ここは昨年8月に激しい戦闘の舞台となった。建物には今も銃弾の跡が残る。

アパートの小さな一室に、3人の若い男性が座っていた。タブレット端末と、たばこの箱で支えた無線機。かれらはここで前線の部隊と連絡を取り、空爆を指揮する有志連合司令部にISISの動きを伝える。

ダハム・ハサキさん(21)は慣れた手つきでタブレット端末の画面を操作し、グーグルマップ上のある地点を文字メッセージとともに本部へ送った。ハサカの前線にいる同志たちが、敵の戦闘員2人の動きを目撃したという。機器の使い方は米国人ら外国の部隊から教わったと、ハサキさんは話す。

シリア北部にあるハサカの町が対ISIS作戦の最前線として注目を集めつつある

ハサキさんによると、ISISは最近、数人単位の小さな集団で動くようになり、察知するのが難しくなった。

攻撃が終わった後で現場に入り、敵に与えたダメージを確認するのもハサキさんたちの任務だ。その様子を記録したビデオには、目を覆うような光景が映っていた。

ISISはこの地域でアラブ系の村から撤退する際、住民を全員引き連れて移動するのだという。イラク国境付近の小さな村で昨年12月、こうした車列が空爆を受け、女性や子どもを含む住民30人以上が死亡したとの情報もある。ただ米中央軍がCNNに語ったところによれば、村の付近では当日、有志連合が空爆を実施した事実はなく、この情報は信頼性がないと判断された。

SDFは今後1~2カ月のうちに、ISIS支配下のアシュハダディという町に攻撃を仕掛ける構えだ。現地の活動家らによると、この町の住民は事実上ISISの「人間の盾」にされ、外部との通信も遮断されている。

SDFがアシュハダディを掌握すれば、ISISは首都と称する街ラッカとイラク北部モスルという2大拠点を結ぶ重要な補給路を絶たれることになる。この作戦は米軍にとって、信頼できる地元勢力を見つけて支援するという新路線の試金石になるかもしれない。そして農地の真ん中の古い滑走路も、新たな出番を迎えることになりそうだ。

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