「デザイナーベビー」に徐々に近づく生殖医療

生殖技術の発展はどこへ向かう?

2015.12.31 Thu posted at 14:54 JST

(CNN) 「男性で非常に長身。肩幅は広く、すらっとした体形。完全な左右対称の顔には灰青色の目がきらめき、笑うと少しいたずらっぽい表情に」――。ロマンス小説の描写ではない。インターネット上で精子を購入しようとすると、実際にこんな説明が見つかる。

現在はマウスを数クリックしてクレジットカードを使うだけで、特定のタイプの赤ちゃんの精子や卵子を注文することができる。遺伝子技術が進歩するなか、生まれてくる子どもの種類を選ぶ方法がさらに増える見込みだが、問題となるのは、我々が実際にそれを選ぼうとするかどうかだ。

米ワシントンでは12月1日から3日にかけて、米英や中国の科学者らが集まり、ゲノム編集についての歴史的な国際会議が開催された。議長を務めたカリフォルニア工科大学のデービッド・ボルティモア教授が開会の辞で述べたところによれば、「人間の遺伝的な特質を改変するためのゲノム編集を、我々がいつ利用するのか」をめぐって議論が交わされた。

生殖医療技術は数世代にわたり、時には世論を追い越す形で前進してきた。不妊などに悩む多く親がテクノロジーに目を向ける現在、より健康な赤ちゃんを生み出すだけでなく、突出した特徴を持つ「デザイナーベビー」を作るのに科学を利用するのか、大きな問題となっている。

こうした可能性はSF映画の筋立てのように聞こえるかもしれないが、19世紀からすでに、科学は妊娠に介入していた。医者がデザインした最初の例として知られる赤ちゃんは、1884年生まれ。不妊に悩むクエーカー教徒の夫妻に請われたフィラデルフィアの医者がこの女性に麻酔を施し、医学生から提供された精子を使って人工授精させた。

体外授精で生まれた人は5500万人に

その赤ちゃんは健康だった。だが、時代的な配慮から妊娠の経緯について聞かされていなかった女性は、夫の子どもでないとは知らず、25年後になって医者が真実を発表。この医者は人工授精を施したとして追放になった。生殖医療の技術を切り開いた他の医者らも、「自然に手を加えた」として職を失っている。

1940年代には、従来とは異なるさまざまな妊娠方法をめぐり議論が紛糾。当時のローマ法王ピウス12世は、「神の仕事を人間の手に委ねる」ものだと批判し、こうした選択肢をカトリック信者に禁じた。

だが、世論は最終的にこの技術を受け入れ、体外授精により妊娠する女性は大幅に増加した。体外授精から生まれた人は少なくとも5500万人に上る。

体外授精の技術も進化した。専門のクリニックが精子を冷凍保存し、疾患につながる要素の有無を検査する。着床前遺伝子診断を活用することで、医者はわずか8細胞期の段階の胚から、約100種類の遺伝性疾患の有無を調べることができる。

「こうした遺伝子検査は着実に進歩している。生命に危険をおよぼす病気を取り除ける確率が増えたほか、体外授精治療の有効性を高めることも可能だ」。こう話すのは米エモリー大学医学部のジェシカ・スペンサー博士だ。

知能や外見が「完璧」なデザイナベビーを作る日が来る?

早い段階で胚の性別を見分けることもできるようになった。男女をえり好みする親が中絶を行うのを防ぐ目的から、性判定は多くの国で禁止されている。ただ、米国では制限がないため、性判定の選択肢を提供している米国のクリニックは海外の患者の間で人気だ。

3人の「親」の遺伝物質を組み合わせることにより、失明やてんかんを引き起こすDNA変異を取り除く技術もある。米国では禁止されているが、2月に英国で認可が下りた。異常のある卵子のミトコンドリアに代わり、健康なドナーのミトコンドリアを移植するもので、米国でも似たような技術が試行されている。ただ、米食品医薬品局(FDA)は、長期的な影響をめぐり疑念が生じたのを受け、これをいったん中止にした。

この技術に関しては、子どもの健康面にとどまらず、目や髪の色、知能などを選別する遺伝子改変技術につながりかねないとして、懸念を示す倫理学者もいる。デザイナーベビーについての著書がある米ダートマス大学のロナルド・グリーン教授は、この技術が今世紀の終わりまでには確実に手が届くようになるだろうとの見通しを示す。

世論調査によれば、米国人の大半は、遺伝性疾患の除去からさらに踏み込んだ技術に警戒感を持っている。だがグリーン氏は、技術のおかげで子どもが有利になるようであれば、こうした姿勢が変化する可能性もあると指摘。「iPhone(アイフォーン)が欲しくなるなんて最初は誰も思いつかなかった。だが、スティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出すと、みなが持つようになった」と述べる。

グリーン氏が例として挙げるのは、親が高身長の男の子を欲しがる可能性だ。研究によると、背の低い子どもは収入が低くなり、いじめられやすい傾向があるほか、リーダーを任される可能性も減るという。「親が『背の高い子どもを作ろう』と話すのが予想できる」と話す。

DNA情報から「バーチャルな胚」を作成し600種類以上の疾患の検査が可能に

倫理学者であるグリーン氏は、親の意向で子どもを次のマイケル・ジョーダンにするような遺伝子改変は行うべきではないとの考えだ。人種差別や同性愛嫌悪を理由とした遺伝子操作にも反対だ。ただ、外見に影響を及ぶいくつかの技術の適用が今より広がる可能性があるとの見方を示す。

生殖医療技術を扱う企業、米ジーンピークスは、潜在的な精子提供者と受け取る側のDNAを使ってバーチャルな胚を作成、600種類以上の疾患を検査できるという。既存の検査方法を超えるこの手法は既に特許申請済みで、将来、飲酒や薬物使用の傾向を判定したり、身だしなみに気を使う人物になるか見分けたりできる可能性もあるという。

だが、米カンザス大学のアラン・ハンソン教授(社会人類学)は、技術が進化してもデザイナーベビーの質を競い合うような事態にはならないと予測。体外授精により子どもをもうけた女性ら数百人にインタビューしたが、大半の女性は「健康な子どもを欲しがる傾向にあり、それ以外の点では、自分に似た技能水準や知能を持つ子どもを欲しがる」という。

ハンソン氏によれば、女性はたいてい、結婚相手になったかもしれないタイプの男性ドナーの精子を選ぶという。「子どもの遺伝的な性質の向上が可能になると、人々はそれに飛びつき、妊娠をめぐる『軍備競争』が勃発するとの多くの予想がある。だが、私の研究ではそうした事態は見られず、その傾向が変わるとも思えない」と話す。

スペンサー氏も同意見だ。社会的に許容されていない行為に及ぶ一部の業者が出てくるのは避けられないが、それ以外のクリニックは信頼でき、専門的な指針を順守するだろうとの見方を示す。

「完璧な」子どもを作る 生殖医療

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