東京が「世界一の美食都市」になった理由は?

東京では果物や野菜が丁寧に扱われ、驚くような値段になることも

2015.12.30 Wed posted at 16:00 JST

(CNN) 世界的な食の中心地として、他国から頭一歩抜きんでているのが東京だ。ミシュランガイドで星を獲得したレストランの数は226店と、2位であるパリの94店を大きく引き離している。

ミシュランガイドに選ばれているのは、懐石やすし、鉄板焼きだけではない。一つ星以上を獲得した東京のフランス料理店も50店に上る。

また米誌サブールは9月、東京を「世界ベストフードシティー」に選出した。他の都市を推す声もあるだろうが、高級ホテルから「横町」のラーメン屋に至るまで、日本の厨房(ちゅうぼう)に良質さを追求する姿勢があるのは間違いない。

以下では有名シェフら7人に話を聞き、東京の強さの理由を探った。

ティエリー・マーレー氏(東京「リッツカールトン東京」)

リッツカールトン東京の総料理長ティエリー・マーレー氏は、「東京には本当に多くのレストランがある。このうちの多くは8~10席しかないような小さな店で、すしから鉄板焼き、天ぷら、懐石まで何でも専門店がある」と語る。

「東京で店を出す人は物件を保有して、わずかな従業員だけでやっている。自分の仕事をよく理解しているからだ」「味に一貫性があり、毎日良質な料理が出てくる。毎日のように店に出ているからだ」

マーレー氏はまた、規模の小ささが武器にもなり得ると指摘。「欧州のレストランに比べ有利な点がある。一度に50席以上が入るようなレストランでは、味の一貫性を保つのが難しくなってくる」と述べる。

「東京のレストラン事情は一生かかっても理解できない。複数階ある建物が多く、それぞれの階に複数のレストランが入っている。シェフとしてはもどかしいが、すべての店で食べてみるのは不可能だろう」と話した。

リッツカールトン東京が10月初めに開催した食のイベントには世界中から有名なシェフが参加=同ホテル

バージリオ・マルティネス氏(リマ「セントラル」)

ペルーの首都リマにレストラン「セントラル」を持つバージリオ・マルティネス氏。同店は2015年の「世界のベストレストラン50」で4位に入った。東京を定期的に訪れるというマルティネス氏は、日本人シェフの並外れた集中力と献身的な姿勢に注目する。

「日本にはすべてがあり、人々は最高の食材を味わうことができる」「野菜が美しい。また技量もある。東京のレストランに行って魚をさばく美しい技術を見たが、伝統に対する尊敬の念に根ざしており、食事客に自信に満ちたメッセージを送っている」

マルティネス氏はまた、シェフがみな熱心であることも指摘。「料理人は自分の技術に対して本当に情熱的」「毎日毎日、一つのことだけをやっている職人がいる。自分にとってはそれが完成形。ミシュランが東京に多くの星をつける理由だ」と述べる。

橋本憲一氏(京都「梁山泊」)

橋本憲一氏は、京都の懐石料理を専門とするシェフ。独学で料理を学んだ。「梁山泊」は2009年以来、ミシュランで二つ星を獲得してきた。著書も5冊あり、伝統的な日本の料理法に関する専門家として海外に広く知られている。

橋本氏は、この10年間でヘルシーな料理への需要が増えてきて、日本料理はこの流れに完璧に合致すると言及。日本食が人気なのはそれが一つの理由かもしれないと語る。

また日本の食材の季節感も重要だとも指摘。春夏秋冬と世界クラスの材料が手に入るのは幸運で、それを反映してメニューが変わるという。料理人の多くは30年あまりの経験を積んでおり、大半が特定のタイプの料理に特化し、ときには「ある1皿を専門とする料理人もいる」と橋本氏。料理人は自身の持つ特有のタッチを食材に加えるが、ミシュランで二つ星や三つ星を獲得する店が本当に優れているのはその部分だという。

マンダリオリエンタル東京のフランス料理店「シグネチャー」=同店

ジュリアン・ロイヤー氏(シンガポール「オデット」)

ジュリアン・ロイヤー氏はアジアで新進気鋭のシェフの1人。同氏が携わったレストラン「ジャーン」は「アジアのベストレストラン50」で11位に入った。最近はシンガポール・ナショナル・ギャラリーに「オデット」を開店している。

「食材、日本という国の立地、はっきりした四季があること」が美食の要因と説明。「至るところに多様性と良質さがあり、南から北海道のある北まで、海山や森など、食べ物や農業という点で豊かな伝統がある」「特に地元の料理スタイルや食材には人々が大きな誇りを抱いている」と述べる。

日本の料理はすっきりと真っすぐな味わいがあるとも言及。食材の質が良く、あまり手を加える必要がないという。「カウンター6席の小さな地元の酒場であれシャンデリアのついた大きな高級レストランであれ、日本人は同じように力を込めて細部まで注意を払っている」とも述べた。

トーマス・コンベスコット・ルペル氏(東京「マンダリンオリエンタル東京」)

ミシュランで星を獲得したレストランが3店入る「マンダリンオリエンタル東京」の料飲部長。「技術や実践という意味では、日本では毎日、ミリメートル単位まで極められている」「ミシュランはその一貫性に着目したのだと思う。日本では本当に重要なこと」だと述べる。

「開かれた心や料理に対する情熱、献身性も挙げられる。オーブンの隣で寝なければならなくなっても、それで良しとする姿勢だ」

「東京のフランス料理店に行くと、本当にパリにいるように感じる。料理、飲み物、食材、サービス、話し方も本物だ」「ピザ屋に行く場合でも同じで、本当にイタリアにいるような感覚が味わえる。これはすごいこと」と述べる。

佐藤秀明シェフは香港でフランス料理店「Ta Vie」を営む=同店

佐藤秀明氏(香港「Ta Vie」)

佐藤秀明氏は東京の有名な三つ星店「龍吟」で働いた後、香港に支店を開店、すぐに二つ星を獲得した。今はフランス料理店「Ta Vie」を経営している。

佐藤氏は、日本人シェフの1人として、みな芸術的な気質を持っていると感じると語る。この気質は仕事に対する日本人のメンタリティーにも当てはまり、料理人の場合は提供する料理の質や細部に強く集中するという。

佐藤氏はまた、世界中の食文化を受け入れる日本人の姿勢も一因だと指摘。シェフや客がみな日本人であっても、「フランス料理やイタリア料理を歓迎する姿勢は変わらない」

佐藤氏は、多くのシェフや食通、業界関係者が日本が世界一の食文化を持つ都市だと述べている点について、ミシュランに掲載された店だけに当てはまることではないと指摘。屋台やファストフード、テークアウト品から高級店に至るまで、あらゆる種類の食べ物について言えることで、「本当に食の天国だ」と語る。

加地吉治氏(香港「フェリックス」)

四国・愛媛出身の加地吉治氏は、香港ペニンシュラホテル内にある現代欧州料理店「フェリックス」の料理長だ。

加地氏によると、シェフにとって完成の基準は毎日のように上がっていて、日本で働いていたシェフは味や香りだけでなく、料理の細部も重要だということを知っている。一般的に、東京の人々は毎回の食事にたくさんの品目を少しずつ食べるのが好きだという。

「シェフとしてはそれぞれの料理について、新しい見せ方とともにユニークな味の組み合わせを持つように心がけている」と加地氏。東京では競争が激しいことから、シェフはみな腕を磨き、注目を集める新しい料理のコンセプトを考案すべく研さんを重ねていると語る。

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