長い歴史誇る「サンタ学校」に密着 米ミシガン州

1937年に開校したミシガン州のサンタ・スクールで学ぶサンタたち

2015.12.23 Wed posted at 18:41 JST

(CNN) ずんぐりした体形にあごひげをたくわえた男性が100人以上、赤と緑の服に身を包み、蒸気機関車に乗って米ミシガン州の地方部を行く。彼らはみな同州の「チャールズ・W・ハワード・サンタ・スクール」で学ぶサンタだ。

なぜサンタが、観光客向けのアトラクションである45分間の鉄道の旅を楽しむのか? 経営陣のトム・バレント氏に理由を尋ねると、蒸気機関車が登場するサンタ映画「ポーラー・エクスプレス」を引き合いに出し、「『ポーラー・エクスプレス』は素晴らしい映画、素晴らしい物語だ。サンタにはポーラー・エクスプレスに乗るような感覚を味わってほしい」と話した。

サンタ・スクールは北米に多数あるが、なかでも同校は、継続的に開校してきた学校としては世界最長クラスの歴史を誇るという。俳優であり生涯サンタ役を務め続けたチャールズ・W・ハワード氏が1937年、ニューヨーク州のアルビオンに開校。66年に同氏が死去すると、生徒だったメアリー・アイダ・ドーン氏と夫のネイト氏が後を継ぎ、同校をミシガン州に移転させた。ドーン氏は今でも完全出席の学校記録を持っており、今年が57年目だ。

ドーン夫妻が引退を決意した際には、70年代から同校に通い始めた前出のトム・バレント氏と妻のホリー氏がすでに経営に携わっていた。同校への愛着からだという。

トム氏は87年、建築家と組んでミシガン州ミッドランドに「サンタ・ハウス」を建設した。サンタ・ハウスは同校の精神的支柱となっており、魔法の場所でもある。中に入るとおもちゃ屋のような光景が広がっており、ペパーミントの香りが漂うなか、小妖精が忙しく働く音が響く。ミッドランドで建設会社を経営するトム氏は毎年、新しい趣向を加えている。

最近は受講生が増加中で、毎年サンタ志望の男女125人あまりが入校する。サンタ・ハウスは小規模のクラスにしか使えない状況だ。

受講者は10月に3日間、手話やトナカイの操り方、メイクの仕方などの講義を受ける。テレビの生放送に出演する際のインタビューの受け答えや小妖精の踊りのほか、「ホーホーホー!」というサンタの正しい笑い声も学ぶ。受講生のサンタらによれば、同校はいわばサンタ版のハーバード大学で、履歴書に校名を書けばどこでも仕事に就けるという。

おもちゃ売り場で商品を眺めるサンタ・スクールの受講生

次はミッドランドの「ザ・Hホテル」を訪れた。受付で案内されたのは一見何の変哲もない2階の会議室だが、入り口では小妖精が名札を配布し、入室するとサンタが一人ひとり自己紹介していた。全米各地から男女が集まっており、国境を越えたカナダ・オンタリオからの参加者もいる。

ホリー氏によると、このうち半数が新入学生。残りは旧友との再会を心待ちにして来た卒業生だという。6回目の受講だというキャリー・デービスさんは、「毎年、何か新しい学びがある」と話す。引退後の生活の資金の足しにしたいプロのサンタがいる一方、地元の教会や学校での行事で代々サンタに扮してきた生家の伝統を引き継いでいる人も通う。いつも子どもたちにサンタと間違われるからという理由で来る人も。

室内の全員がいかにもサンタという格好をしているわけではない。トム・バレント氏のように、妻が嫌がるという理由で口ひげを生やさない人や、黒人のサンタもいる。

一方、チェーンスモーカーであったり、トム氏の再三の注意にもかかわらず異性に近づく悪いサンタもいないわけではない。とはいえ、大多数はほとんど聖人のようだ。

トム氏が授業で、「なぜ人類はサンタを作ったのか」と問いかけると、「希望」「愛」「慈悲」といった声が帰ってきた。サンタになるにはやはり、大きな責任が伴う。社会は数百年にわたり、クリスマスの魔法を作り出すためサンタに頼ってきた。

サンタとしては、子どもにサンタの存在を信じさせたり、忙しい大人に一息いれてクリスマスの本質を思い出してもらわなければならない。真夜中にトナカイ9頭を操って屋根の上に停車し、プレゼントを持って煙突をすべり降りる必要もある。家の犬を起こさないようにして去るのも大事だ。バレント氏によれば、これらすべてをこなすためには完璧を期さなければならない。

木製のおもちゃの作り方を学ぶサンタ・スクールの受講生ら=CAITIE MCCABE/MOTHER IMAGE

次に訪れたのはトム・バレント氏が経営するジェレース建設社の倉庫。薄暗い内部では、トレーラー車の周りに少人数のサンタが集まっていた。車上には木製のそりが乗っており、等身大のトナカイの模型9体が先導する格好になっている。手綱を引くサンタはかけ声をかけてやる気十分だが、なかにはひざが痛んでそりに乗るのがつらいというサンタも。隣の倉庫では、大勢のサンタが木でできたおもちゃの車の作り方を熱心に学習中だ。

外には米ゼネラルモーターズのスポーツ用多目的車(SUV)、「シボレー・トラックス」の真っ赤な車両が止められている。ナンバープレートにはもちろん「HOHOHO」の文字。さらに目を引くのが「サンタとその奥さん、夫婦そろって雇えます」という広告だ。サンタの車にこうした広告を載せるのは珍しいことではない。サンタたちは男女ともに、名刺やソーシャルメディアのアカウントを持ち、小売り大手のウォルマートやディズニーランドなどあらゆる場所で働いている。

こうなると、真のクリスマスの精神を体現するということと生活のために稼ぐ必要性とをどうやって両立させているのか疑問がわく。カナダ・オンタリオのサンタ・ファミリー社で働くピーター・ボクソール・ジュニア氏の答えは、「バランスを取る」というもの。ボクソール氏は父親とともにシーズン中、サンタとしてショッピングモールやパーティー会場で働いている。姉妹がサンタの奥さん役で、ガールフレンドが小妖精役だ。

サンタ・ファミリー社のウェブサイトには、ボクソール氏の一家が提供するサービスの一覧が記載されている。自宅へ来てもらうサービスの料金は100~150カナダドル(約8950円~1万3400円)。クリスマスイブにサンタが家を訪れ、子どもたちが遠くから見守るなかツリーの下にプレゼントを置く「スニーク・ア・ピーク」のコースは500カナダドルで予約可能だ。

サンタの奥さんに扮する女性の受講生も=CAITIE MCCABE/MOTHER IMAGE

ボクソール氏は「お金を稼ぐのが趣旨ではない」というが、きちんとしたサンタ業を務めるにはそれなりにお金がかかる。サンタの多くは特製の服に3000ドル(約36万6000円)、付けひげに1000ドル、皮のブーツに700ドルをかける。コスチュームのクリーニングや修繕の費用もかかるうえ、子どもに関する情報を両親からこっそり聞き出すために使われるテクノロジーにもお金がいる。

バレント夫妻のサンタ・スクールでは、お金稼ぎにしか興味がないような応募者は落としている。妻のホリー氏は「子どもと接したくない、歌わない、という露骨な人には、あなた本当にサンタ・クロースなのと言っている」と話す。

子どもたちが思い切って聞きたいのはやはり「サンタは本当にいるの」という質問だが、同スクールのサンタらはどう答えればいいのか心得ている。それは「私はサンタのお手伝いをしているんだ。でも本物のサンタはいるよ」という答えだ。

一方、サンタ・ファミリー社のボクソール氏にサンタ・クロースを信じているか聞いてみたところ、「本物のサンタが誰なのかは決してわからない。しいて言えば、私の父だろうか」と答えた。

クリスマスの喜びを伝えるために

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