ソウル(CNN) 十代で北朝鮮を出てから60年余り。残してきた家族の身を、どれだけ案じ続けたことか――。韓国と北朝鮮がこのほど実施した離散家族の再会事業で、アン・ユンジュンさん(85)はついに妹たちとの再会を果たした。
アンさんは当時、兵役を逃れるために北朝鮮を後にした。最後に見た妹たちの姿はまだ子どもだった。それ以来ずっと、家族は無事に生きているだろうかと案じ、会いたいと願い続けてきた。
朝鮮半島などで生き別れた離散家族の再会事業が1980年代に始まってから、アンさんはずっと参加希望を出し続けた。今回ようやく200組足らずの家族の1組に選ばれ、その願いがかなったのだ。
再会当日の24日。アンさんは最初、すぐ下の妹(79)の顔が分からなかった。だが額に見覚えのある傷を見つけて確信した。子どもの頃、戦いごっこをしていて自分がつけてしまった傷だ。
「ただ喜びでいっぱいだった」――アンさんはCNNとのインタビューで、対面の瞬間をそう振り返った。
アンさんは何よりも先に、妹に許しを請うた。自分が去った後、妹たちに家族の面倒を見させてしまったからだ。それは本来自分が負うべき責任だったと、アンさんは話す。
すると、その下の妹(72)がこう答えた。「お兄さんはいなかったけれど、偉大なる首領様が私たちを懐にかき抱き、大きな家を与えてくださいました」
妹の顔のしわや粗末な民族衣装から、とても苦しい生活を送ってきたことがうかがえた。だが会話を一言も漏らさず聞いている北朝鮮当局の監視員の前で、そんなことを認めるわけにはいかないのだろう。
「妹は実際の年齢よりずっと老けて見えた」と、アンさんは言う。
だが本当はどんな生活だったのか、あの場で語り合うことはできないと感じた。もう1人の妹がなぜ33歳で亡くなったのか、その理由も尋ねられなかった。
アンさんは「私が何か間違ったことを口にすれば、妹たちに(北朝鮮当局からの)影響が及ぶ。それが心配だったから、話したり尋ねたりする内容には注意した。あまり自由に振る舞うことはできなかった」と話す。
南北境界線の向こう側で家族みんなが通ってきた何十年もの苦労を思い、会っている間に悲しみばかりが募っていったという。
「知らなければもっと穏やかな気持ちでいられた。知ってしまったから余計に悲しい。会わないほうがよかった」と、後悔を口にする。
3日間の再会で、一緒に過ごしたのはわずか数時間。すぐに別れの時がやってきた。
妹たちにはたぶんもう二度と会えないだろう。そう思うとひときわ悲しみが増した――と、アンさんは寂しげにつぶやいた。
南北離散家族、60年ぶりに再会