「正恩体制は短命に終わる」――ある脱北者の予測

金正恩第1書記(前列左から2番目)に対する上層部の忠誠心が揺らいでいる?

2015.09.09 Wed posted at 20:30 JST

(CNN) 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)体制は不安定で、長く続くとは思えない――。北朝鮮から脱出した元上層部の男性が、CNNとのインタビューでこう言い切った。

彼の年齢は比較的若い。首の細さが目立つ、やせ型の顔と体つき。北朝鮮ではめったに味わえないからと、食事にはすしをリクエストした。

本人の身の安全のために詳しい描写は控えておく。ほかに言えるのは、北朝鮮で上層部の地位にあったこと、わずか1年前に亡命してきたばかりということだ。韓国政府と協力関係にある大学研究者を通し、脱北者としてCNNに紹介された。

家族は今も北朝鮮にいる。これ以上の情報を明かせば彼らが危険にさらされる。北朝鮮当局に自身の居場所を突き止められる恐れもある。それでも外の世界に伝えたいことがあるから、インタビューに応じているという。

金正恩第1書記の体制は、父の金正日(キムジョンイル)総書記や祖父の金日成(キムイルソン)主席が率いた体制に比べて安定性が最も低く、寿命も最短で終わるだろうというのが、彼の見解だ。

金正恩氏(中央)が話しかける叔父の張成沢氏は2013年に処刑された

2011年に故・正日氏の後を継いだ正恩氏は当初、市民に食料を配り、自身の肉声を放送させるなど「精一杯の努力」を示した。市民の間で生活の改善を期待する声が高まったが、彼によればそれは「偽りの姿」だった。

2013年12月、朝鮮労働党はナンバー2の地位にあった張成沢氏の追放を発表。経済政策への妨害や反体制行為が理由とされた。張氏は正恩氏の叔父に当たる人物だっただけに、周囲の驚きは大きかった。

正恩氏が「本性を現したのだ」と、彼は主張する。張氏を拘束したとの発表に続いて「犬にも劣る人間のクズ」と非難する声明が流れ、ついには処刑が報じられた。

正日氏は市民を政治犯として投獄し、餓死していくのを看過したが、自分の側近にこのような仕打ちはしていない。一方、正恩氏の標的は張氏だけにとどまらなかった――彼はそう指摘する。

諸外国の予想に反し、北朝鮮の人々は何も反応を示さなかった。だが彼の話によれば、上層部には静かに、しかし確実に不信感が広まっていった。

脱北した上層部がCNNの取材に応じた

「北朝鮮の中流、上流階級がもはや正恩氏を信頼していないのは確かだ。私はずっと前から脱北を考えていたが、張氏が処刑されたのを見て、一刻も早くこの地獄から脱出しなければと考えた。だから実行に踏み切ったのだ」

彼はだれにも計画を明かさず、大きな危険を冒して脱出を果たした。詳しい経緯をここで述べるわけにはいかないが、捕らえられたり命を落としたりする危険性が非常に高かったのは事実だ。

それでも正恩氏の下にとどまるよりはましだったと、彼は強調する。側近らが次々と処刑されるにつれ、上層部に変化が起きていくのが分かった。「次は自分かもしれないとだれもがおびえ、日に日に恐怖を募らせている」という。

だが、ソウル大学統一平和研究院が毎年100人以上の脱北者を対象に実施する調査によると、正恩氏の支持率は昨年58%を記録。就任直後の7割からは下落しているものの依然高い水準を維持している。

同院の上級研究員は、回答者が少ないため世論を反映しているとは言えないものの、1年ごとの支持率の変化が見て取れると指摘する。上層部の粛清は「正恩氏が自信を深めている」表れであり、外側から見るよりも政権の安定性を感じているのではないかと語る。

脱北者の男性は北朝鮮の体制が10年以内に崩壊するとの見方を示した

一方、脱北者の男性は、上層部の忠誠心は揺らぎ、今後ますます損なわれていくと予測する。だからこそ、この男性は家族を後に残してくることができたと語る。近いうちに再会できることを確信しているのだという。

「北朝鮮の体制は10年以内に崩壊する」――彼はこう言い切った。自分の叔父を平然と殺すような指導者では、一般市民からの信用も落ちるばかりだと指摘する。

今後、側近の中から暗殺を企てる者が出るかもしれない。米国や韓国への挑発が裏目に出るかもしれない。さまざまな可能性を挙げたうえで、彼は「正恩氏が生きている限り、北朝鮮の崩壊はあり得ない」とも断言。「北朝鮮の開放や改革は、外部の力で正恩氏が排除された時に初めて可能になる」との見方を示した。

「正恩体制は短命に終わる」――ある脱北者の予測

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