なぜ「広島」を忘れてはならないのか 岸田外相が寄稿

岸田文雄外相

2015.08.06 Thu posted at 17:44 JST

(CNN) 1945(昭和20)年8月6日、1発の原子爆弾が私の出身地である広島に投下され、13万人以上の命を奪った。

それから70年が過ぎた現在、私の胸にはある被爆者の言葉がとりわけ深く刻み込まれている。今や私個人の信念ともなったその言葉とは、「被爆体験は思い出したくないが、二度と繰り返さないために忘れないようにしている」というものだ。

広島と長崎への原爆投下から70年を迎え、より平和な未来を確実にするためには過去から学ぶ姿勢が不可欠だ。

日本は長年にわたり、核兵器廃絶を目指す世界的な活動の先頭に立ってきた。現在も、そのコミットメントはこれまでと同様にゆるぎないものだ。世界の核兵器保有国が自ら核兵器を廃棄するとの考えに対し多くの疑念があることは承知しているが、私は日本の外相として、また広島の出身者として、核兵器のない世界という目標は達成可能であり、それに向かって努力しなくてはならないと心から信じている。

地球上には現在、約1万6000の核弾頭が存在する。冷戦ピーク時の7万からは大幅な削減といえるかもしれないが、その数は依然としてあまりに多く、廃絶に向けた動きも極めて遅い。

2011年に米ロ間で署名された新戦略兵器削減条約(新START)により、核兵器の数はさらに減少するだろう。しかし核軍縮を追求するという責務が最大数の核兵器を保有しているこの2カ国だけに課せられたものではない以上、他のすべての核保有国も核軍縮の交渉に臨むべきだ。

これを念頭に、我々はいまだに核軍縮の取り組みを行っていない国々に対し、全廃という最終的な目標に向けて核兵器を削減するよう求めていく。

とはいえ核兵器の廃絶を目指すなら、何よりもまずそれらの武器に依存する状況に歯止めをかけなくてはならない。つまり核兵器の削減には、安全保障戦略と軍事ドクトリンにおけるそれらの役割と重要性を低減する取り組みが伴う必要があるということだ。

残念ながら現在、総合的な国防戦略の一環として軍事力における核兵器の比重を高めようとするような動きが一部の国で見受けられる。明らかに誤った方向へと導く取り組みだ。

先般、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が正式なコンセンサスに到達できなかったことには非常に落胆した。それでも同会議の合意案の中には、世界の核兵器に関する完全な説明責任および透明性の必要性など、広範な支持を得た要素が多く含まれていた。これらの内容が失われることがあってはならない。

配備および備蓄された核兵器の正確な状況が把握できなければ、核軍縮の課題に適切に対処することは不可能だ。また透明性の向上は、一般の人々の間で問題に進展が見られるとの確信が高まることにも寄与するだろう。それゆえ、私はすべての核保有国からの信頼できるデータを求める。

変化を起こすには一般の人々からの支援が欠かせない。この点を念頭に置き、私は世界中の政治指導者と若者に対し、広島と長崎を訪れて核兵器がもたらす壊滅的で非人道的な結果を直接見てほしいと思う。そうした訪問自体が、核軍縮に向けた強力な原動力になると信じるからだ。

軍縮の問題は武器の不拡散という課題と密接に結びついている。私は、北朝鮮に対し、国際社会からの再三の要求に従い、すべての核兵器および現存する核計画を放棄するとのコミットメントを果たすべく具体的な措置を取ることを強く求める。

日本はこれまでと同様にこれからも、国際原子力機関(IAEA)の保障措置制度の強化を積極的に支持していく。こうした措置は核物質の非平和的な利用への転用を防ぐ上で不可欠なものである。またアジアおよび世界における、輸出管理の厳格化にも引き続き取り組んでいく。

いうまでもなく、現在イランをめぐる核合意が世界中の関心を集めている。歓迎すべき合意であり、その内容が着実に実施されることを期待する。これらの措置を検証するにあたって、我々はIAEAが果たす極めて重要な役割と、天野之弥事務局長の強いリーダーシップを完全に支持するものである。

今月には包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する賢人グループ会合が、また来年4月には先進7カ国(G7)外相会合がいずれも広島で開催される。それらの場で、ここまで挙げた全ての課題が議論されるのを期待する。

安倍晋三首相とオバマ米大統領は4月、核兵器不拡散条約に関する共同声明の中で以下のように述べた。「広島及び長崎の被爆70年において、我々は、核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末を思い起こす。広島と長崎は永遠に世界の記憶に刻み込まれるであろう」

この声明から明らかなように、我々が後世に残すべき遺産とはたった一つのシンプルなものである。すなわち、日本が核兵器の被害に遭った地球上で最初にして最後の場所であり続けるということだ。

岸田文雄氏は日本の外務大臣です。記事における見解は同氏のものです。

この記事は米CNN.comに掲載された英文記事を翻訳したものです。

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