香港(CNN) 香港にあるテット・ダイニング・ルーム・アンド・バーは、シェフ、ヴィッキー・ラウ氏(34)が経営する、フランス料理に日本の要素を取り込んだレストランだ。
ここの抹茶のデザートは、まるで本物の禅庭園(日本では枯山水とも呼ばれる)のように盛り付けられ、小さな熊手や砂糖でできた砂利まで付いてくる。細部にもこだわっており、実際の枯山水の模様を描くのに使われる道具も見事に再現されている。
しかし、ラウ氏の料理は単に胃袋と目を満足させるためだけの料理ではない。ラウ氏が目指しているのは、心にも栄養を与える「食べられる風景」の創作だ。
テットのオーナーシェフであるラウ氏は、「お客さまには、『禅庭園』を通じて、食事の後、さまざまなことに思いを巡らせていただきたい」と語る。
ラウ氏は最近、2015年の「ヴーヴ・クリコ アジアの最優秀女性シェフ」に選ばれた。テットも2013年の開店以来、ミシュランガイドで毎年星を獲得している。同ガイドでは、ラウ氏の料理を「フランスと日本の要素の選択的なミックス」と紹介している。
シェフとして成功を収めたラウ氏だが、もともとシェフになるつもりはなかった。
ラウ氏は、大学卒業後、デザイナーとして広告業界で勤務し、その後、料理学校ル・コルドン・ブルーのバンコク校に入学した。さらに、ミシュランの星を獲得した香港のレストラン、セパージュに入り、シェフのセバスチャン・レピノイの下で腕を磨き、2012年にテットを開業した。
席数24席の店内は、白い壁に真鍮(しんちゅう)をあしらった上品な雰囲気だ。
「テットを開店した時、料理を通じて自分を表現し、自分が読んだ詩、自分が行った場所から得たひらめきを伝えられる、小さくて家庭的な場所にしたいと考えた」とラウ氏は語る。
ラウ氏はそれを「食べられる物語」と名付けた。
例えば、テットの定番メニューの1つである「禅庭園」は、数年前、旅行で京都を訪れた際に見た茶会からヒントを得た。「茶文化の強さを心から尊敬している。日本人の文化の多くが反映されている」と語り、日本の茶懐石に特に感銘を受けたという。
ラウ氏の料理には、入念に作られた「食べられる物語」が表現されている。
これらの物語は、ウエイターが料理を出す際に客に説明するが、ラウ氏は客にも、各料理について自分なりの解釈をしてもらいたいと考えている。テットでの食事が通常よりも時間を要するのはそのためだ。
食事に時間がかかれば、当然テーブルの回転率は下がるが、ラウ氏は客に料理をじっくり味わってもらうために、回転率を犠牲にすることもいとわない。
ラウ氏は、普段は落ち着いた表情をしているが、ひとたびおいしい食事や興味のある食べ物について語りだすと、活気に満ちた表情に変わる。しかし、「フュージョン(融合)」という言葉を耳にすると眉間にしわを寄せる。
「その言葉を使うのは好きではありません」とラウ氏は語る。「今はそんな時代ではありません」
「私は自分が特定の料理のジャンルにとらわれているとは思っていません。フレンチはあくまで土台にすぎず、自分がいいと思えば、他の料理の技法もどんどん取り入れます」(ラウ氏)