北朝鮮で大うけ、CNNカメラマンによる「フラフープ外交」の顛末記

CNNのカメラマンがフラフープを披露。さて、その理由は?

2015.07.12 Sun posted at 18:01 JST

平壌(CNN) 北朝鮮を取材中のCNNカメラマンが訪問先の水族館で大勢の観客を前にフラフープを行う出来事があった。当人は予想もしていなかった事態だ。なぜ北朝鮮でフラフープをする羽目になったのか。カメラマン本人が事のいきさつを記した。

撮影に訪れたのは平壌イルカ水族館。故・金正日(キムジョンイル)総書記の命令で作られたとされている。

私は注目を浴びるのは好きではない。カメラマンとしての職業柄、普段は一歩引いたところから人々のありのままの姿を撮影したいと思っている。だが、大きなテレビカメラを携行した長身の西洋人の姿は北朝鮮ではめったにない光景であり、どうしても人目を引いてしまう。私はイルカショーの間、多くの視線が自分に注がれていることを意識しつつも平静を保ち、なるべく目立たないようにしていた。

平壌にイルカ水族館があるとは驚きだったが、観客は楽しんでいた。その多くは労働者のようで、遠足に来ていた小学生も大勢いた。私にとっては興味深い撮影対象だった。日常的な場面で北朝鮮の人々に接したのは初めて。1週間にわたる取材の間、これまでは常に政府の担当者が同行しており、撮影内容も全て決められていた。

来場者のほとんどはごく普通の市民のようだった。ただ、ここは北朝鮮のエリート層が住む地域。皆きれいな身なりで、良い靴を履いていた。彼らは外見を誇りにしており、休日でもフォーマルな服装を身にまとっている。

私は今回の取材にあたり、ごく普通の人々の素顔を撮影することを主眼に置いていた。

フラフープを披露したカメラマンのブラッド・オルソン(右)とCNNのウィル・リプリー特派員

北朝鮮の人々についてはこれまで、軍事パレードや国家行事のような場で、厳かな表情でテレビに映っているのしか見たことがなかったからだ。水族館に来ている人々は、家族や友人に囲まれ、リラックスしているように見えた。

ショーの第1部ではタイセイヨウマダライルカが登場。ガイドによると、北朝鮮周辺の海域に生息している種だという。こうしたショーでは大抵、バンドウイルカが使われることが多いが、経済制裁のため現在は輸入できない状況だ。「我々は主権国家であり、外圧には屈しない」との説明を受けた。

ショーでは、観客の中から数人がその場で選ばれて壇上に上がり、イルカと接することができる。司会の女性は観客席に降りてくると、登壇する女性をまず1人選び、次にCNN取材班一行が座る席に近づいてきた。

私はカメラのファインダーに顔をうずめ、多忙を装っていた。だが、司会者は私の真正面に立ち、もう無視することができない状況に。ついに登壇するよう声をかけられた。私は隣のCNN記者を指さし「彼に頼んでみて」と言ったが、司会者の意志は固い。会場は静まりかえり、全ての視線が私に注がれていた。

ここで拒否すれば会場内の全ての人を侮辱することになる。それにイルカに餌を与えれば済むことだろう。そう感じた私は立ち上がり、カメラを取材班に預け、司会者の後に続いて登壇した。

北朝鮮の人たちも拍手喝采

壇上に上がった私たちに手渡されたのはフラフープだった。フラフープを目にしたのは小学校以来のことだった。

最初はうまくいかなかったが、なんとか観客から声援をもらえるだけのあいだは回せすことができた。この努力のお陰で、本当に頑張ったのだが、2本目のフープを渡された。なんてこった。

1本でも私の心臓は破裂しそうだったのだが、もう後戻りはできない。何とか2本で成功させると、観客からは拍手喝采。そして、3本目のプレゼント。私はコツをつかみつつあり、3本でも回すことができた。観客は大盛り上がりだ。

私は長い間、必死に腰を振った。同時にフープを回していたイルカに競り勝ったらしい。少なくとも、私はそう聞かされた。賞として風船を2つもらい、万雷の拍手を受けた。私はなるべく威厳を保ちながら座席に戻ると、愛するカメラの後ろに隠れた。

ショーはこの後すぐに終了。水族館を後にする私に対し、ガイドは「素晴らしかった。観客は本当に楽しんでいた」と言ってくれた。

出口では館長があいさつに来て、水族館で働かないかと勧められた。冗談半分だったのだろうけど。

北朝鮮で「フラフープ外交」

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