ワシントン(CNN) イスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の名前が米国の一般家庭にまで浸透してから1年。ISISが残虐行為と巧妙なプロパガンダを駆使し、国際テロ組織アルカイダを凌ぐ勢いでジハード(聖戦)に共鳴する人々を引きつける中、米当局によるISIS参加希志望者の摘発が急増している。
米国では1月以降、摘発が相次ぎ、少なくとも25人が拘束された。逮捕者の増加は、大規模捜査が実を結びつつあることを示す一方、ISISがアルカイダとは異なる特殊な課題を突き付けていることも意味している。アルカイダの場合、米国内の人材を引きつける例は少なかった。
捜査当局者によると、ISISは当初、人気ロックバンドにも似たメディア戦略でプロパガンダを展開。洗練された映像で残虐行為を美化するなどして、急速に参加者を集めた。初期の参加者の多くは、自発的に過激思想に傾倒。動画共有サイトなどで公開されたプロパガンダ映像を視聴することで、自ら過激化していった。
だが、こうした初期の欧米からの参加者がひとたびISISの支配領域にたどり着くと、彼らは出身国の友人らを直接勧誘し始めた。米ミネソタ州では先ごろ、ISIS参加を企てたとして、米国人のアブディ・ヌル被告と関係があるなどとして男9人が起訴された。同被告は2014年にシリアでISISに合流し、米国内の友人に中東渡航を呼びかけていた。
米テロ対策当局者は「中東に渡航した者は皆、米国内の知人に連絡を取る手段を持っている」と指摘。欧州でも同じ現象が見られ、多くの若者がISISに引き込まれている。
ISISは、アルカイダと比べて共鳴者を勧誘しやすい状況にある。10年前、アルカイダへの参加志望者は、アフガニスタンやパキスタンの奥地にある訓練キャンプにたどり着かねばならず、それほどの困難を冒してまで合流する西洋人は少なかった。
一方、今日のISISの場合、トルコ経由で支配領域に到着することができ、はるかに渡航が容易だ。イスタンブールの空港はアクセスが良いほか、トルコはインフラ整備が進んでおり、短時間で国境地帯に到着することができる。そこから密航業者の助けを借りてシリアに入国するという経路だ。
こうしたネットワークは非公式のものであり渡航も容易なことから、捜査当局としては対処が難しい。米テロ対策当局者は、友人同士のつながりを介した採用方法について「捕捉するのが難しい」と認める。
ISIS台頭以前、捜査関係者は過激思想を流布するモスク(イスラム教礼拝所)や聖職者に焦点を当て、採用ネットワークの発見につなげていた。
例えばアルカイダは、聖戦に参加する意欲を持つ過激派を採用することを主眼とし、サウジアラビアやイエメンなど、保守的なイスラムの伝統が強い国を中心に人材獲得を進めていたという。
一方、ISISの採用手法はより世俗的だ。カリフ(イスラム教預言者ムハンマドの後継者)制国家では腐敗した西洋に比べ、はるかに良い暮らしが待っているとうたう。貧富の差や性別、年齢を問わない多様な層がISISの宣伝戦略に引きつけられる格好になっている。
西洋からの加入者がISIS組織内で昇格している兆候もあるという。最近のプロパガンダ映像では英語の質も向上し、文法上の間違いやつづりのミスも減った。
米国内での摘発者の増加は、捜査の成功を意味する一方、ISISの勧誘が弱まる見込みは当面ないとの米当局の認識を示すものでもある。米テロ対策当局者は「新たに捜査に着手する数が終了する数を上回っている」と話す。
ISIS参加を目指す米国人が急増