香港の屋上スラム 再開発の陰で広がる住宅格差

美しい香港の風景のすぐ近くで、住宅格差が広がりつつあるという

2015.03.29 Sun posted at 09:52 JST

香港(CNN) 林立する高層ビルがきらめく香港の夜景。だが、華やかな発展の陰には深刻な格差が存在する。問題となっているのは、古いアパートの屋上に違法に増築された掘っ立て小屋だ。住宅価格が高騰している香港では、低所得層の多くがこうした「屋上スラム」で生活している。当局は屋上スラムの住人に立ち退きを迫っているが、大多数は他に行き場がないのが現状だ。

59歳のフォン氏は月1700香港ドル(約2万6000円)の家賃を払い、15階建てのアパートの屋上で暮らしている。ただし家の広さはわずか約7平方メートル。主に建設現場で働いており、月収は8000香港ドル(約12万円)ほど。10歳になる娘を養いつつ家賃を払うにはぎりぎりの額だ。

フォン氏もやはり、当局から退去を求められている。だが、提示されている補償金はわずかな額に過ぎない。よそに移って生活を再建できるような条件ではないとして、フォン氏は立ち退きを拒否している。

屋上スラムの現状は、盛んな不動産開発の陰で住宅格差が拡大する香港社会の縮図だ。豪華な高層ビルが立ち並ぶ足元では、老朽化したアパートに人々が密集して暮らしており、その屋上にはスラムが広がる。

2坪にも満たない空間に11年以上住み続けている人もいる

こうした屋上スラムが建設され始めたのは1950~60年代。トタン屋根で覆った掘っ立て小屋のような粗末な作りだが、半世紀以上にわたり、低賃金の移民労働者らの住居として重要な役割を果たしてきた。

香港統計局の最新の調査によると、2011年の屋上スラムの住人は1588世帯3474人となっており、2001年の1万6000人から大きく減少した。この背景には香港の土地不足がある。近年、ショッピングモールなどへの再開発が進む中、古いアパートは次々に取り壊されている状況だ。

フォン氏が住んでいるのは、香港で最も貧しく人口が集中した地域のひとつ。フォン氏が住む屋上スラムには他にも約40人が暮らしているが、皆同様に政府から退去勧告を受けている。10年以上ここで生活してきた人もおり、他に行く当てはない。

「狭いアパートに住むよりは屋上のスペースの方が広々としている」。こう語るのは21歳の女子大生だ。母親と弟と共に屋上家屋に暮らしている。当初はネズミやゴキブリが気持ち悪かったが、今はもう慣れたという。

フォン氏によると、屋上家屋はビルの最上階の家主によって非公式に賃貸に出されている。一方、女子大生の場合、母親が誰に家賃を払っているのか見当もつかないという。

エコノミストはこうした香港の住宅不足について、一部の富裕層に資産が集中し、格差が拡大していることの証左だと指摘する。米経済誌フォーブスの2014年の長者番付には香港から45人が選ばれた。

その資産の合計は2140億米ドルに上り、香港の域内総生産(GDP)の約8割を占める。一方、40万世帯は貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。

米調査会社デモグラフィアが昨年初めに発表した調査によると、香港の住宅価格は世界最高となっており、住宅価格の中央値は402万4000香港ドルだった。こうした住宅価格の高騰は香港経済の好調さを示すものだが、足元の建設現場で働くフォン氏のような人々にまで恩恵が及んでいるとは言い難い。

将来的に、女子大生の一家は公共住宅に移ることを希望しているが、順番待ちの列は長い。一方のフォン氏は、ビルが取り壊される日が来るまで屋上に住み続けるつもりだという。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。